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人類が宇宙に建てた「家」が、海に沈む日。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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国際宇宙ステーション(ISS)の2031年退役——制御落下の計画と25年間の遺産

今も軌道上を飛んでいる「人類の宇宙拠点」

地上から約400km上空を、高度を保ちながら時速約2万8000kmで周回する物体があります。**国際宇宙ステーション(ISS)**です。全長約109m・幅約73mとサッカー場ほどの大きさを持ち、90分で地球を一周します。条件がそろえば肉眼でも確認できる、まばたきしない明るい光として見えることがあります。

ISSには2000年11月以来、途切れることなく人が滞在しています。四半世紀近くにわたり、常時誰かが軌道上で生活し、実験を続けてきた計算になります。

しかしNASAは、このステーションを2031年に制御落下させる計画を公表しています。

ISSはどのように建設されたか

冷戦終結後の国際協力から始まった

ISSの建設は、1993年にアメリカとロシアが協力関係を結んだことから本格化しました。かつて宇宙開発競争で対立していた両国が、技術と資金を持ち寄って軌道上に構造物を建てるという、それまでにない枠組みでした。

ソ連は冷戦期から宇宙ステーション**「ミール」**(1986年〜)を運用し、長期滞在のノウハウを積んでいました。そのロシアが、アメリカおよびカナダ・日本・欧州11か国と組んだのがISSプロジェクトです。

40回以上の打ち上げで組み立てた軌道上の構造物

1998年11月、ロシアの基幹モジュール**「ザーリャ」**の打ち上げで建設が始まりました。その後の組み立ては次のような規模になります。

  • 参加国:アメリカ、ロシア、日本、カナダ、欧州11か国(計15か国)
  • 重量:約420トン(太陽電池パネル等を含めると450トン超とされています)
  • 全長:約109m、幅:約73m
  • 完成までの組み立てミッション:40回以上、船外活動(宇宙遊泳):数百時間超

日本は実験棟**「きぼう」**として参加しました。日本初の有人宇宙施設であり、無重力環境を活かした新素材やタンパク質結晶の研究が現在も行われています。

各モジュールを真空・無重力・秒速8kmという環境下で接続していく作業は、地上の常識が通じない「宇宙での建築」でした。

なぜ運用を続けず、落下させるのか

設計寿命を大幅に超えた構造物の劣化

ISSは当初、運用期間を15年程度と見込んで設計されました。それが30年以上使われることになったのは設計時の想定外であり、各部の老朽化が進んでいます。

宇宙環境は構造物に対して過酷です。ISSの船体は90分ごとに昼夜を繰り返し、日向では約+120℃、日陰では約−150℃に達するとされています。この約270℃の温度差の繰り返しにより、金属は膨張と収縮を延々と続け、目に見えない疲労を蓄積します。これを熱サイクル疲労といいます。

加えて、

  • **微小隕石やスペースデブリ(宇宙ごみ)**の継続的な衝突(ミリ単位の破片でも秒速10km前後で衝突すれば大きなダメージになります)
  • 原子状酸素による金属表面の侵食
  • 強い宇宙放射線による材料劣化

近年はロシアのモジュールで微細な空気漏れも報告されています。老朽化が進んだステーションを軌道上に放置することのほうが、安全上の問題が大きいという判断があります。

制御なしに落下させると落下地点が特定できない

放置すれば、ISSは大気の抵抗で徐々に高度を下げ、最終的に制御不能のまま大気圏に再突入します。420トンの構造物がどこに落下するか分からない状況は、重大なリスクです。

そのためNASAは**「制御された退役」**を選択しました。エンジンを使って減速と落下地点の制御を行い、あらかじめ決めた海域に着水させる方法です。

2031年の退役計画:何が、どこに落ちるのか

スペースXが軌道離脱専用宇宙船を開発中

2024年、NASAはISSを軌道から離脱させる専用宇宙船の開発をスペースXに委託しました。契約額は約8億4300万ドル(約1300億円とされています)。この機体は**「USDV(US Deorbit Vehicle)」**と呼ばれます。

計画の流れは次のとおりです。

  1. 2030年頃からISSの高度を段階的に下げていく
  2. 最終局面でUSDVがドッキングし、エンジンで減速をかける
  3. ステーションを目標地点に向けて大気圏突入させる
  4. 大気との摩擦熱で本体の大部分は燃え尽き、残った破片を指定海域に落下させる

落下地点は南太平洋の「到達不能極」

落下地点として計画されているのは、南太平洋のポイント・ネモです。「到達不能極」とも呼ばれ、最も近い陸地まで約2700kmという、地球上で陸地から最も遠い海域です。

この海域はすでに、役目を終えた宇宙機を集中的に落下させる場所として使われています。旧ソ連のステーション「ミール」もここに落下しており、これまでに300機近い宇宙機が沈んでいるとされています。大気圏突入時に燃え残った構造物の破片が、人の居ない海域に落ちるよう設計された運用方法です。

ISSの成果は地上の技術・医療にも活用されている

「宇宙の話は自分には関係ない」と感じる方もいるかもしれませんが、ISSでの研究成果はすでに地上の技術に応用されています。

  • 無重力下でのタンパク質結晶研究は、筋ジストロフィー治療薬や新薬開発の手がかりに
  • 宇宙飛行士の骨・筋肉の衰えの研究は、高齢者医療や廃用症候群の予防研究に応用
  • 閉鎖環境での水リサイクル技術は、災害対応や乾燥地帯の水処理に転用
  • 軌道上からの地球観測は、気候変動の監視や災害状況の把握を支えている

ISSは単なる実験施設ではなく、宇宙環境で機能する技術や知見を25年以上かけて蓄積してきた場でもありました。

次世代の宇宙ステーション計画はすでに進んでいる

ISSの退役後も、軌道上に宇宙拠点を置く計画は各方面で進んでいます。NASAは民間による商業宇宙ステーションの構築を支援しており、Axiom Station(アクシオム・スペース社)やブルーオリジンらが関わるOrbital Reefといった計画が進行中です。中国はすでに独自の宇宙ステーション**「天宮」**を完成させ、運用しています。

ISSが残すもの

累計1500億ドル超(20兆円規模ともいわれています)を投じて建設されたISSは、2031年に大気圏で燃え尽き、残骸はポイント・ネモに沈む予定です。しかしそこで行われた研究の成果、多国間で運用を続けてきた25年間の実績、そして宇宙環境下での建設・居住・実験のノウハウは、後継の宇宙施設へと引き継がれます。

ISSの最大の意義の一つは、15か国が政治的な対立を超えて一つの構造物を維持し続けたという実績そのものにあります。それは、後継施設が民間主導・各国独立の方向へ向かっていく中で、改めて参照される経験値になるはずです。

編集部の視点

この記事で注目したいのは、「落ちる」という事実よりも、なぜ制御して落とさなければならないかという点です。420トンの構造物を放置すれば落下地点が特定できない——その一文に、宇宙開発の責任の重さが凝縮されています。また、15か国が30年近く政治的対立を超えて一つの施設を維持し続けたという事実は、技術の話である以上に外交と信頼の話でもあります。退役を「終わり」として惜しむだけでなく、それが次世代の民間主導型ステーションへの橋渡しである点にも目を向けて読んでいただけると、より奥行きのある記事になると思います。

よくある質問

Q. ISSは大気圏に再突入するとき、全部燃えてしまうのですか?
ほとんどの構造物は大気との摩擦熱で燃え尽きますが、すべてが消えるわけではありません。燃え残った破片が南太平洋のポイント・ネモ(到達不能極)に落下するよう、スペースXが開発中の専用宇宙船USDVで落下地点を制御する計画です。
Q. なぜ今すぐ退役させず、2031年まで使い続けるのですか?
老朽化は進んでいますが、今この瞬間に危険というわけではなく、まだ科学的な価値があります。一方で退役の準備(専用宇宙船の開発・軌道離脱の計画策定)には数年かかるため、安全性を保てる限界と準備期間を見極めた結果が2031年という時期です。
Q. 日本の実験棟「きぼう」もポイント・ネモに沈むのですか?
はい、「きぼう」はISSの一部であるため、ステーション全体と同じ流れで大気圏再突入・制御落下の対象となります。大半は燃え尽き、残った破片がポイント・ネモ周辺の海域に沈む予定です。
Q. ISSが退役した後、宇宙飛行士が滞在できる場所はなくなるのですか?
そうではありません。NASAはAxiom StationやOrbital Reefといった民間商業ステーションへの移行を支援しており、中国も独自の宇宙ステーション「天宮」をすでに運用中です。軌道上の有人拠点そのものがなくなるわけではなく、主体が国際協力体制から民間・各国独立の体制へと移行していく流れです。
Q. ポイント・ネモはなぜ宇宙機の墓場として使われているのですか?
最も近い陸地まで約2700kmという地球上で最も陸地から遠い海域であるため、燃え残った破片が人や船舶に当たるリスクが極めて低いからです。すでに旧ソ連のミールを含む300機近い宇宙機がここに沈んでおり、国際的な慣行として定着しています。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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