
降格された星が、9年越しに微笑んだ。
冥王星のハート:降格された星が9年越しに見せた素顔 2015年7月、人類は初めて冥王星の「顔」をはっきりと見ました。そ…

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いま、自分の手のひらを見てください。その手をかたちづくる原子の多くは、地球が生まれるよりはるか昔に、どこかの星の内部でつくられたものです。
血液を赤くする鉄、骨を支えるカルシウム、呼吸のたびに体をめぐる酸素。これらはいずれも、かつて存在し、寿命を終えた星の残骸に由来します。これは詩的なたとえではなく、物理学と化学が導いた結論です。私たちの体は、文字どおり星でつくられた物質から組み立てられています。
「私たちは星屑でできている(We are made of star-stuff)」という言葉を世界に広めたのは、天文学者カール・セーガンでした。ただし、これは単なるロマンチックな表現ではなく、20世紀の物理学が積み上げてきた研究の結論を言いあらわしたものです。
20世紀の初めまで、人類は元素がどこで生まれたのかを知りませんでした。鉄や金が地中から掘り出されることは知られていても、それらが宇宙のどこで、いつ、どのようにつくられたのかは、わかっていなかったのです。
転機は1957年に訪れます。マーガレット・バービッジ、ジェフリー・バービッジ、ウィリアム・ファウラー、フレッド・ホイルの4人が発表した論文――著者の頭文字をとってB²FH論文と呼ばれます――が、星の内部こそ元素を生み出す場所であることを理論的に示しました。
それに先立ち、ホイルは「星の中で炭素がつくられるなら、ある特定のエネルギー状態が存在するはずだ」と予言していました。その後の実験で、まさに予言どおりの状態(ホイル状態)が見つかります。理論が現実の原子核の性質を言い当てたのです。こうして、どの元素がどこで生まれるのかという「元素の系譜」が描かれはじめました。
宇宙が誕生したビッグバンの直後に存在した元素は、ごくわずかでした。
炭素も酸素も鉄も金も、当時の宇宙にはありませんでした。周期表の欄の大半は空白だったのです。では、その空白を埋めたのは何か。答えが「星」でした。
星とは、自らの重力でつぶれそうになりながら、中心で核融合(原子核どうしが融合して、より重い元素になる反応)を起こして輝く天体です。太陽のような星は、まず水素をヘリウムに変えます。
太陽の中心温度は約1,500万度とされ、ここで水素がヘリウムへと融合します。その過程で生まれる莫大なエネルギーが、46億年にわたって地球に光と熱を届けてきました。
星がより重く、より熱くなると、融合はさらに先へ進みます。
こうして大質量星の内部は、玉ねぎのように元素の層が積み重なった構造になります。中心に鉄、その外側にケイ素、酸素、炭素、ヘリウム、水素と並ぶ、いわば元素の地層です。
ところが、ここで星は壁に突き当たります。鉄より重い元素は、通常の核融合ではつくれないのです。
鉄(原子番号26)は原子核として最も安定していて、これをさらに融合させても、エネルギーが生まれるどころか、逆に奪われてしまいます。星の中心に鉄がたまった時点で、エネルギー源は尽き、自らの重力を支えきれなくなります。
支えを失った星の中心は、1秒以下のごく短い時間で激しく収縮し、跳ね返るように大爆発を起こします。これが**超新星爆発(スーパーノヴァ)**です。その明るさは一時的に、数百億個の星からなる銀河全体に匹敵するほどになることもあります。
この爆発の超高温・超高密度の環境では、鉄より重い元素の一部が一気に合成されます。そして、つくられた元素は星の残骸として宇宙空間へとばらまかれ、次の星や惑星の材料になっていきます。
金やプラチナ、ウランといった最も重い元素の生まれた場所は、長らく超新星爆発だと考えられてきました。ところが近年、もうひとつの現場が、有力な証拠とともに浮かび上がっています。
中性子星とは、超新星爆発のあとに残される、極限まで圧縮された天体です。直径わずか20km程度の球体に、太陽以上の質量が詰め込まれているとされます。角砂糖1個分の体積で、地球上の全人類の重さに匹敵するほどの高密度です。
2017年8月17日、二つの中性子星が衝突・合体する現象が、重力波(時空のさざ波)と光の両方で同時にとらえられました。GW170817と名づけられたイベントです。
この衝突の解析から、金やプラチナなどの重い元素が、この中性子星衝突で大量につくられているとみられる証拠が見つかりました。試算では、この一度の衝突だけで地球数個分の金が宇宙にまき散らされたと考えられています。
つまり、指輪の金は、はるか昔に起きた二つの中性子星の衝突が残したものなのかもしれません。
それでも、元素の系譜が完成したわけではありません。次のような問いが、いまも残されています。
このことは、単なる科学的な豆知識ではありません。私たちが自分の存在をどうとらえるかにかかわる話です。
朝、コップに注ぐ水の酸素は、かつて星の中でつくられたものです。心臓を動かすのに欠かせない鉄には、超新星の記憶が宿っています。スマートフォンに使われるレアメタルもまた、星の死がもたらした産物です。
私たちは宇宙を「外側から眺める観測者」だと思いがちです。けれども実際には、私たち自身が、宇宙を構成する物質が組み上がり、やがて自分自身を見つめ返すようになった姿でもあります。星屑が、星空を見上げている。これは詩的でありながら、科学的にも正確な事実です。
もう一度、自分の手を見てください。その手のひらの内側では、いまも何十億年も前の星々に由来する原子がはたらいています。超新星の爆発、中性子星の衝突、宇宙にばらまかれたちり。それらが長い時間をかけて集まり、地球となり、やがて「あなた」になりました。
ここまでで確かにわかっているのは、星が核融合と爆発を通じて元素をつくり、その材料から私たちの体ができているということです。一方で、最も重い元素がどこでどれだけつくられるのか、最初の星が何を残したのかは、まだ研究の途上にあります。
私たちの体を形づくる原子は、いつか宇宙へ還り、また新たな星や惑星、あるいは誰かの一部になっていくでしょう。宇宙は遠い場所の話であると同時に、私たちの体そのものの話でもあるのです。
編集部の視点
この記事で最も注目してほしいのは、「星屑」という言葉が比喩ではなく文字どおりの事実だという点です。誤解されやすいのは、「すべての元素が星でつくられた」という理解で、水素だけはビッグバン由来という例外があります。また、金の起源が長らく超新星とされてきたのに対し、2017年の中性子星合体観測がその常識を塗り替えつつある――この「現在進行形の発見」こそ、宇宙科学の醍醐味です。科学は完成した答えではなく、更新され続ける問いの集積であることを、ぜひ感じ取ってください。
よくある質問
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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