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地球史公開 更新 1

24億年前、生命の常識が覆った日。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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「酸素は猛毒だった」——24億年前、地球の大気が一変した出来事

いま吸い込んだ酸素は、私たちにとって生命の象徴です。肺を満たし、血液を巡り、細胞の一つひとつにエネルギーを供給します。

ところが、地球の歴史を長くさかのぼると、その酸素がほとんどの生命にとって有害だった時代があったと考えられています。今から約24億年前、地球の大気には酸素が急激に増え、それまで地上を支配していた生命にとって大きな転機が訪れました。善悪が入れ替わるように、毒が糧へと変わっていったこの出来事の物語をたどってみます。

酸素のなかった原始の地球とその主役

私たちはつい「地球には最初から空気があった」と思いがちですが、これは正確ではありません。

地球の誕生から十数億年ものあいだ、大気には遊離酸素(O₂、ほかの物質と結びついていない酸素分子)がほとんど存在しなかったと考えられています。大気を満たしていたのは二酸化炭素や窒素、そしてメタンでした。当時の空は、いまのような澄んだ青ではなく、メタンの影響でオレンジがかった霞んだ世界だった可能性が指摘されています。

その世界の主役は、**嫌気性生物(けんきせいせいぶつ)**でした。酸素を必要とせず、むしろ酸素に触れると死んでしまう微生物たちです。彼らは海底の熱水や泥のなかで、硫黄や鉄、メタンを利用して代謝を営んでいました。酸素が存在しないことこそが、彼らにとっての当たり前の環境だったのです。

海のなかで酸素をつくり始めた生物

この世界に、やがて新しい能力を持つ生物が登場します。**シアノバクテリア(藍藻)**です。

シアノバクテリアは、地球環境を大きく変えることになる酸素発生型光合成という仕組みを獲得していました。太陽の光と水(H₂O)、二酸化炭素を材料にエネルギーを生み出す反応で、これによって生命は太陽光という事実上尽きないエネルギー源を使えるようになりました。

そして、この反応の過程で生じる副産物こそが、酸素でした。陽光の差し込む浅瀬で、無数のシアノバクテリアが小さな泡を吐き出していく。一つひとつはわずかな量ですが、それが何億年もかけて地球の大気を変えていく出発点になりました。

「大酸化事変」——酸素が大気にあふれた瞬間

シアノバクテリアが放出した酸素は、すぐには大気に溜まりませんでした。当時の海には、酸素を消費する物質がたっぷりと溶け込んでいたからです。その代表がでした。

海の鉄が酸素を吸収し、地層に記録を残した

太古の海には、火山活動などによって大量の鉄イオンが溶け込んでいたと考えられています。シアノバクテリアが放った酸素は、まずこの鉄と結びつきました。鉄は酸化して、つまり錆びて重くなり、海底へと沈んでいきました。

この化学反応の証拠とされるのが、世界各地で見つかる**縞状鉄鉱床(じょうじょうてっこうしょう)**です。酸化鉄を多く含む赤茶けた層と、鉄をあまり含まない層が、何千枚も交互に積み重なっています。これは酸素が海の鉄を酸化させていった過程の記録だと考えられています。現在私たちが利用している鉄資源の多くも、この時代に形成されたものとされています。

やがて海中の鉄が酸化し尽くされると、酸素は行き場を失い、大気へとあふれ出しました。約24億年前のこの出来事を、科学者は**大酸化事変(Great Oxidation Event, GOE)**と呼んでいます。

嫌気性生物に起きた大量絶滅

ここで、それまでの価値が逆転します。

嫌気性生物にとって、酸素は有害な気体でした。酸素は反応性が高く、細胞内の重要な分子を次々に酸化して壊してしまいます。それまで地球を支配していた生命の多くは、別の生物が生み出した副産物によって減っていったと考えられています。

これは地球史で最初の、そして大規模な大量絶滅の一つだったとされています。一部の研究者は、この出来事を「酸素ホロコースト」と呼ぶこともあります。生命が自ら生み出したもので、別の生命が滅んでいく。そうした皮肉な転換が起きたと考えられているのです。

さらに、気候の激変も重なりました。それまで地球を暖めていた強力な温室効果ガスであるメタンが、増えた酸素と反応して分解されたとされています。保温の役割を失った地球は冷え込み、赤道付近まで凍りついたとされる大規模な氷期、ヒューロニアン氷期に入りました。地球全体が凍結したとする説は「スノーボールアース」とも呼ばれています。毒性・絶滅・寒冷化という三つの変化が、若い地球に重なったと考えられています。

大絶滅のあとに広がった、新しい生命のかたち

ただし、この出来事は生命史の終わりではありませんでした。むしろ、新しい生命のかたちへの入り口になったと考えられています。

酸素を逆に利用する生物の登場

酸素は反応性が高く、危険であると同時に、大きなエネルギーを取り出せる物質でもあります。やがて、この酸素を利用して効率よくエネルギーを生み出す生命が現れました。酸素呼吸をおこなう**好気性生物(こうきせいせいぶつ)**です。

酸素呼吸は、酸素を使わない代謝に比べて、はるかに多くのエネルギーを生み出せるとされています。このエネルギー効率の高さが、生命を複雑化させる原動力になったと考えられています。

その象徴が、私たちの細胞のなかにあるミトコンドリアです。もともとは独立した好気性の細菌で、別の細胞に取り込まれて共生するようになった存在だと考えられています。いまも私たちの細胞でエネルギーを生み出しているこの器官は、酸素を利用する側へと生命が転じた歴史の名残とも言えます。

まだ解かれていない謎

大酸化事変は、いまも地球科学や宇宙生物学の最前線で研究が続くテーマです。

たとえば、なぜこのタイミングで酸素が増えたのか、という問いがあります。シアノバクテリアは大酸化事変よりかなり前から酸素をつくっていた可能性が指摘されており、酸素が一気に溜まり始めたきっかけが何だったのかは、まだ完全には解明されていません。

また、酸素濃度は一度上がったあとも一直線に増えたわけではないとされています。GOEのあと地球は長い停滞の時代に入り、複雑な多細胞生物が広く登場するには、約6億年前の第二の酸素上昇イベントを待つ必要があったと考えられています。なぜそれほど長い足踏みがあったのかも、大きな謎として残っています。

この問いは、地球の外にもつながります。系外惑星の大気から酸素が見つかったとき、それを生命の証拠とみなせるのかどうか。地球がたどった酸素の歴史を知ることは、地球以外の生命を探すための手がかりになると考えられています。

一呼吸に重なる24億年の歴史

いま吸い込んだ酸素は、24億年前に原始の海でシアノバクテリアが吐き出した泡に始まったものだと考えられています。それは多くの生命を減らした有害な気体であり、地球を錆びつかせ、寒冷化を招いた要因でもありました。その一方で、酸素を利用する側に回った生物が、複雑な生命へ、そして私たち人類へと続く道を開いたとも考えられています。

毒だった気体が、やがて命を支える糧になる。大量絶滅のあとに、新しい進化が広がる。そうした逆転が、地球の歴史の早い段階で起きていたことになります。

まとめ:何がわかっていて、何がまだ謎なのか

整理すると、確からしいと考えられているのは、約24億年前にシアノバクテリアの光合成によって大気の酸素が増え、海の鉄を酸化させ、縞状鉄鉱床という記録を残したこと。そして嫌気性生物の大量絶滅や寒冷化が起き、その後に酸素を利用する生物が広がったことです。

一方で、なぜその時期に酸素が急増したのか、なぜ複雑な生命の登場まで長い停滞があったのかは、まだはっきりしていません。次に空を見上げるとき、その青がいつ、どのようにして生まれたのかには、まだ解かれていない問いが残っている——そう思い出してもらえれば十分です。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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