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太陽に「触れた」探査機が、生還した。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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太陽に最接近した探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」とは

時速69万キロ。これは、現在人類が作り出した物体のなかで最も速く宇宙を進むとされる速度です。1秒あたりおよそ190キロ、東京から名古屋までの距離を1秒たらずで飛び越える計算になります。

その物体は、私たちの太陽に向かって何度も突入をくり返しています。それでいて焼き尽くされることはなく、毎回きちんと太陽のそばを通り抜けて帰ってきます。

この探査機の名は、パーカー・ソーラー・プローブ。NASAが「太陽に触れた」と表現した、史上初めての探査機です。この記事では、なぜ太陽に近づくことがそれほど難しかったのか、どんな技術でそれを可能にしたのか、そして探査機が何を明らかにしようとしているのかを順に見ていきます。

太陽探査が60年間「不可能」とされてきた二つの理由

太陽へ探査機を送るという構想が初めて公式に提案されたのは、1958年のことです。実現までに半世紀以上を要したのは、大きく二つの壁があったためでした。

ひとつはです。太陽表面の温度はおよそ5,500℃とされ、鉄やタングステンを含む、人類が扱うほとんどの金属が溶けてしまう環境です。そこへ機械を近づければ、そのまま壊れてしまいます。

もうひとつは、意外にも**「速くなりすぎてしまう」**という問題でした。太陽は非常に重く、その重力に引かれて落ちていく探査機は猛烈な速度を得てしまいます。逆に言えば、太陽の重力に逆らってゆっくり近づくには、地球の公転速度——時速約10万キロ——を大きく打ち消すだけの膨大なエネルギーが必要だったのです。熱から機体を守る技術と、減速のためのエネルギーを確保する手段。この二つが揃わない限り、太陽への接近は実現しませんでした。

探査機の名は、存命中の物理学者に由来する

この探査機の名は、ある物理学者にちなんでいます。ユージン・パーカー博士です。1958年、彼は太陽から絶えず荷電粒子の風が吹き出しているという理論を発表しました。今日では広く知られる**太陽風(ソーラーウィンド)**の存在です。

発表当初、この説は学界で受け入れられませんでした。しかし観測技術が追いつくにつれ、彼の予測は次々と裏づけられていきます。

2018年8月に探査機が打ち上げられたとき、NASAはその機体に「パーカー」の名を与えました。NASAの歴史のなかで、存命中の人物の名を冠した初めての探査機だとされています。打ち上げの瞬間は、パーカー博士本人が見守りました。博士は2022年に亡くなりましたが、自分の名を背負った機械が太陽へ向かう姿を見届けたことになります。

機体を守るのは、たった一枚の耐熱シールド

表面1,400℃の裏側に、室温に近い空間がある

パーカー・ソーラー・プローブの核心は、機体本体ではなく、その前面に掲げられた一枚の耐熱シールドにあります。

正式には**TPS(熱保護システム)**と呼ばれるこの盾は、直径約2.4メートル、厚さは11.4センチほど。素材は炭素繊維を炭素で固めたカーボン・カーボン複合材で、内部は軽い炭素フォームでできています。盾全体の重さは、大きさに反して73キロほどしかありません。

コロナの熱が四方から押し寄せるなか、探査機はこの盾だけを前面に構えて突入していきます。盾の表面は約1,400℃まで熱せられます。

ところが、その盾の数十センチ裏側に積まれた精密機器は、およそ30℃という、室内に近い環境に保たれます。表面と本体のあいだに生じるこの大きな温度差を成り立たせている点に、このミッションの技術的な核心があります。

金星の重力を7回使って減速する

では、あの「速くなりすぎる」問題はどう解決したのでしょうか。鍵となったのは、金星を使った重力アシストです。

探査機はいきなり太陽へ向かうのではなく、まず金星のそばを通過します。金星の重力を使って軌道のエネルギーを少しずつ減らし、らせんを描くように太陽へ近づいていく方法です。この金星フライバイを合計7回くり返すことで、探査機は徐々に内側の軌道へと移っていきました。一回ごとに太陽との距離を縮めていく、時間をかけた減速の積み重ねです。

近日点で記録的な速度に達する

軌道が太陽に最も近づく瞬間——近日点(きんじつてん)——で、探査機は非常に高い速度に達します。

太陽の強い重力に引かれて落下することで、機体は時速およそ69万2,000キロまで加速します。これは秒速にして約192キロ、光の速さのおよそ2,000分の1にあたり、人類が作り出した物体のなかでは史上最速とされています。地球から月までの距離を、30分あまりで走破する計算です。

高温に耐える技術と、記録的な速度。この二つを同時に成立させたことが、太陽への接近を可能にしました。

「太陽に触れた」とは、具体的に何を指すのか

鍵を握るのは「アルヴェーン臨界面」

2021年、NASAは「パーカー・ソーラー・プローブが太陽に触れた」と発表しました。

これは比喩ではありませんが、灼熱の表面に着陸したという意味でもありません。鍵となるのは、アルヴェーン臨界面と呼ばれる、太陽の「縁」にあたる境界です。

太陽には、目に見える表面のはるか外側に、コロナと呼ばれる超高温の大気が広がっています。このコロナのどこかに、太陽の磁場と物質の支配がおよぶ「内側」と、太陽風として外へ吹き出していく「外側」とを分ける、目に見えない境界があります。それがアルヴェーン臨界面です。

探査機はこの境界を初めて内側へと越え、太陽の大気そのものの中へ入り込みました。地球でいえば、惑星の大気圏に突入したのと同じことです。だからこそ「触れた」と表現されました。人類の作った機械が、初めて恒星の大気の内側に入った瞬間でした。

史上最接近は、太陽表面から約610万キロ

探査機の旅は、ひとつの頂点を迎えます。2024年12月24日、パーカー・ソーラー・プローブは、太陽表面からおよそ610万キロの地点まで接近しました。

610万キロと聞くと遠く感じるかもしれませんが、地球と太陽の距離が約1億5,000万キロであることを思い出してください。仮に太陽と地球のあいだを1メートルの物差しに置き換えると、探査機は太陽の表面からわずか4センチほどの距離まで近づいたことになります。巨大な太陽の灼熱の縁を、ごく小さな探査機が高速でかすめ飛んでいく。これがこのミッションの実際の姿です。

解明をめざす最大の謎「コロナ加熱問題」

表面より外側のほうが高温になる

パーカー・ソーラー・プローブが挑んでいるのは、物理学者を長く悩ませてきた根本的な謎です。それがコロナ加熱問題です。

ふつうに考えれば、熱源に近いほど高温で、遠いほど低温になるはずです。ところが太陽では、その関係が逆転します。表面温度が約5,500℃であるのに対し、その外側に広がるコロナの温度は100万〜300万℃に達します。熱源である表面から遠ざかっているのに、温度はかえって数百倍に跳ね上がるのです。

なぜこのようなことが起こるのか、その答えはいまだ完全には解明されていません。この記事で扱う範囲のなかでも、ここははっきりと「未解決」と言える部分です。

探査機が現場で見つけた「スイッチバック」

この謎を解くため、パーカーは人類で初めて太陽風の「現場」に飛び込み、これまで遠くから観測するしかなかった太陽風を、生まれたての場所で直接とらえました。

そこで見つかった現象のひとつが、スイッチバックと呼ばれるものです。太陽から吹き出す磁力線が、S字を描くように急に折れ曲がり、ジグザグに反転している現象です。この折れ曲がりが、コロナを加熱し太陽風を加速させるエネルギーの源ではないか——現場のデータから、そうした仮説が浮かび上がってきました。ただし、これはあくまで有力な見方のひとつであり、コロナがなぜここまで高温になるのかという問いに、確定的な答えが出たわけではありません。

望遠鏡で遠くから推測するしかなかった世界が、探査機による直接観測で少しずつ具体的なものに変わりつつある。それが現在の到達点です。

太陽研究は、私たちの生活にどう関わるのか

太陽の研究と聞くと、暮らしとは縁遠い話に思えるかもしれません。しかし、これは私たちの生活に直結した問題でもあります。

太陽が放つ太陽風や、突発的に噴き出す巨大なプラズマの塊——太陽フレアコロナ質量放出(CME)——は、ときに地球を直撃します。これらは美しいオーロラを生む一方で、人工衛星を故障させたり、GPSを狂わせたり、大規模な停電を引き起こしたりする力を持っています。スマートフォンも、航空管制も、電力網も、太陽の活動の影響を受けうる時代に私たちは生きています。

パーカー・ソーラー・プローブが集めるデータは、こうした宇宙天気を予報するための重要な手がかりとなります。太陽の振る舞いをより正確に読めるようになれば、太陽活動が引き起こす「嵐」に前もって備えられるようになります。太陽への接近は、地球で暮らす私たちの生活を守ることにもつながる研究なのです。

まとめ:何が達成され、何がまだ謎なのか

半世紀以上「不可能」とされてきた太陽への接近を、人類は一枚の耐熱シールドと、金星の重力を使った減速、そして長年の技術の積み重ねによって実現しました。

達成されたことは明確です。探査機は時速69万キロ台という史上最速とされる速度に達し、アルヴェーン臨界面を越えて太陽の大気の内側に初めて入り込み、太陽表面から約610万キロまで接近しました。太陽風をその発生現場で直接観測し、スイッチバックという現象もとらえています。

一方で、最大の問いであるコロナ加熱問題には、まだ確定的な答えが出ていません。スイッチバックが有力な手がかりとされているものの、コロナがなぜ表面より高温になるのかは未解決のままです。パーカー・ソーラー・プローブは、その答えを探すために、いまも太陽のまわりを回り続けています。次に空を見上げて太陽の光を感じたとき、その近くで一機の探査機が観測を続けていることを思い出してみてください。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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