
スマホは、アインシュタインで動いていた
スマートフォンの現在地表示は、相対性理論の補正なしには機能しない GPSと時間のズレ——なぜ物理学の話が必要になるのか…

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毎朝のぼってくる太陽は、いつも同じ姿に見えます。けれど物理的に正確に言えば、今日の太陽は昨日の太陽より確実に軽くなっています。1日あたりおよそ3,500億トン。秒に直すと、毎秒およそ400万トンずつ、太陽は質量を失い続けています。
これは比喩でも誇張でもなく、太陽が光り輝いていること自体の必然的な結果です。なぜ輝くものは軽くなるのか。その答えは、20世紀の物理学が見つけた質量とエネルギーの関係に行き着きます。
まず数字の根拠から確認します。太陽が宇宙空間へ放出しているエネルギーの総量、つまり「光度」は約3.828×10²⁶ワットです。これは観測から精度よくわかっている値で、地球の軌道上で太陽光を受け止めて測った「太陽定数」(約1,361ワット毎平方メートル)を、太陽までの距離でできる球面全体に広げて計算したものです。
このエネルギーを、後で触れるアインシュタインの式を使って質量に換算すると、毎秒およそ425万トンになります。動画で「400万トン」とされているのは、このうち目に見える光や熱として放たれる分を見たおおよその数字です。厳密には、太陽は同時に大量のニュートリノという軽い粒子も放っていて、それも含めるともう少し大きな値になります。いずれにせよ、桁としては毎秒数百万トン、という規模です。
400万トンと言われてもピンと来ないかもしれません。大型タンカー数十隻分の質量が、1秒ごとに太陽から消えていく。それが46億年前の誕生以来、ほぼ休みなく続いています。
ここで「消える」という言葉は正確ではありません。質量はなくなったのではなく、別の形に変わっただけです。それを記述するのが、アルベルト・アインシュタインが1905年に発表した E = mc² という式です。
この式は、エネルギー(E)と質量(m)が本質的に同じものの別の顔であり、光の速さ(c、秒速約30万キロメートル)の2乗という巨大な係数で結びついている、と述べています。c² がとてつもなく大きいため、ほんのわずかな質量が、桁外れに大きなエネルギーに化けます。逆に言えば、太陽がこれほど膨大なエネルギーを放つには、毎秒数百万トンという質量が形を変えるだけで十分なのです。
太陽の全質量は約2×10³⁰キログラム、地球のおよそ33万倍です。毎秒400万トンと聞くと猛烈な勢いに思えますが、この巨大な貯蔵量に比べれば、ごくわずかな目減りにすぎません。
では、質量がエネルギーに変わる現場では何が起きているのでしょうか。舞台は太陽の中心部、温度およそ1,500万度、圧力は地球大気の2,000億倍を超える世界です。
ここでは水素の原子核(陽子)同士が、何段階かの反応を経て融合し、ヘリウムの原子核ができます。これを「陽子・陽子連鎖反応」と呼びます。ポイントは、水素4個分の質量よりも、できあがったヘリウム1個の質量のほうが、約0.7パーセントだけ小さいことです。この差し引き分が「質量欠損」で、E = mc² に従ってエネルギーとして解き放たれます。たった0.7パーセントの目減りでも、c² を掛ければ太陽を輝かせるだけの力になります。
太陽がこうした核融合で輝いているという考え方は、1920年にイギリスの天文学者アーサー・エディントンが提唱し、1930年代末にハンス・ベーテらが具体的な反応の道筋を理論化したことで確立しました。それ以前は、太陽は重力でゆっくり収縮しながら熱を出している、という説が有力でしたが、それでは太陽の長い寿命を説明できませんでした。
太陽が軽くなることには、地球にとって無視できない帰結があります。惑星をその軌道につなぎとめているのは太陽の重力であり、その強さは太陽の質量で決まります。質量が減れば手綱はわずかにゆるみ、地球の軌道はほんの少しずつ外側へ広がっていきます。
その大きさは、研究者の見積もりで1年あたりおよそ1.5センチメートルとされています。人の歩幅にも満たない距離です。地球がこの先も太陽からこのペースで離れ続けるのか、他の要因がどう効いてくるのかについては、計算モデルによって幅があり、2026年時点でも一つの確定値に収束しているわけではありません。確かなのは、向きとしては「遠ざかる」方向であり、しかしその速度は人の一生はもちろん、文明の時間尺度から見てもごくわずかだということです。
なお、太陽は核融合による質量損失とは別に、「太陽風」として荷電粒子を吹き出すことでも質量を失っています。両者がどの程度の割合かについては見積もりに幅がありますが、太陽全体の収支から見れば、どちらもやはり微々たるものです。
ここまでの話には、ひとつ厄介な問題があります。太陽の中心で起きている反応を、私たちは直接見ることができません。中心で生まれた光が表面までたどり着くには、何万年もかかると考えられているからです。今あなたが見ている太陽の光は、はるか昔に生まれたエネルギーの最終的な姿です。
そこで決め手になるのが、核融合のときに同時に放たれるニュートリノです。この粒子は物質をほとんど素通りするため、中心から約8分で地球に届き、いわば中心炉の「今」を伝えてくれます。日本の観測装置カミオカンデ、そして後継のスーパーカミオカンデは、この太陽ニュートリノを実際に捉えました。観測されたニュートリノの数が当初の予想より少なかったことから「太陽ニュートリノ問題」が生まれ、その解明を通じて、ニュートリノが飛行中に種類を変える「ニュートリノ振動」という現象が確かめられました。これらの研究は2002年と2015年のノーベル物理学賞につながっています。
太陽が毎秒数百万トン軽くなり続けているのは、観測と理論の両面から確かなことです。一方で、未解明な部分も残ります。中心部のエネルギーがどのように外へ運ばれ、表面の黒点や活動周期にどう結びつくのかは、いまも研究が続く領域です。
長期的に見れば、太陽は誕生から現在までに、すでに地球100個分ほどの質量をエネルギーとして手放してきた計算になります。それでも全体の0.03パーセント程度にすぎません。中心の水素を使い果たすのは、およそ50億年先と見積もられています。そのとき太陽は大きく膨らんで赤色巨星になり、地球の運命にも決定的な影響を与えると考えられていますが、地球が飲み込まれるのか、ぎりぎり外側に逃れるのかは、ここで触れた軌道の広がり方の見積もり次第で結論が変わり、まだ決着していません。
結局のところ、この話の核心はシンプルです。太陽が輝くという当たり前の現象は、質量がエネルギーに変わる一方通行の取引であり、その代償として太陽は確実に軽くなり続けている。そして同じ理屈の延長線上で、地球は今この瞬間も、ほんのわずかずつ太陽から遠ざかっています。見慣れた太陽の光は、その壮大な収支の、ほんの一場面なのです。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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