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宇宙化学公開 1

あなたが今朝飲んだ水は、太陽より古い。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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今朝のコップ一杯に、太陽より古い水が混じっている理由

蛇口をひねって注いだ一杯の水。その中には、太陽が生まれるよりも前から宇宙に存在していた水分子が、わずかながら確かに含まれています。比喩ではありません。水を構成する原子の「重さ」を手がかりに、研究者たちが実際に突き止めた、現時点で最も有力とされる結論です。

太陽が誕生したのはおよそ46億年前。それより古い水とは、いったいどういう意味なのか。なぜそんなことが分かるのか。順を追って見ていきます。

水の「指紋」になる重水素とは何か

話の鍵を握るのは、水素のわずかな個性です。

水(H₂O)は、水素2つと酸素1つでできています。この水素のほとんどは、原子核に陽子を1つだけ持つ「ふつうの水素」です。ところが自然界には、陽子1つに加えて中性子を1つ持つ、少し重たい水素もわずかに存在します。これを**重水素(デューテリウム、記号D)**と呼びます。重水素を含んだ水は「重水」と呼ばれ、ふつうの水よりほんの少し重くなります。

重要なのは、水素に対する重水素の割合(D/H比)が、その水がどんな環境で作られたかによって変わるという点です。とくに、極端に冷たい環境ほど、化学反応の偏りによって重水素が水分子に取り込まれやすくなることが知られています。

つまりD/H比は、水が生まれた場所の「温度の記憶」を刻んだ指紋のようなものです。地球の海の水、彗星の氷、星と星のあいだに漂う氷。それぞれのD/H比を測って比べることで、水の素性をたどることができます。

地球の海の水は、どれくらい「重い」のか

地球の海水のD/H比は、おおよそ水素1万個あたり重水素1.5〜1.6個ほどです(標準平均海水VSMOWを基準とした値)。

この数字自体は小さなものですが、比較の基準として決定的な意味を持ちます。もし地球の水が、太陽系をつくった材料の円盤の中で、高温にさらされて化学的に「作り直された」だけのものなら、D/H比はもっと低い、太陽に近い値に落ち着くはずだと考えられています。

ところが実際の海水は、それより明らかに重水素に富んでいます。この「重すぎる」という事実が、水の起源をめぐる謎の出発点になりました。

「太陽より古い」と分かった決め手

転機になったのが、2014年に科学誌『Science』で発表された、L・I・クリーブス(Cleeves)らの研究です。

彼らは、生まれたばかりの太陽を取り巻いていた原始惑星系円盤(やがて惑星になる塵とガスの円盤)の中で、水の化学反応をコンピューター上で詳細にシミュレーションしました。狙いは、ひとつの問いに答えることでした。

仮に、太陽系をつくる材料となった水が、円盤の段階でいったんすべて分解され、ゼロから作り直されたとしたら、どこまで重水素に富んだ水ができるのか。

結果は明快でした。円盤内の反応だけでは、地球の海や彗星で観測されるほど高いD/H比には到達できなかったのです。重水素に富んだ氷を作るには、円盤よりもさらに冷たく、宇宙線などの影響を受けた環境が必要でした。その条件に当てはまるのは、太陽が生まれる前の母体となった分子雲——星間空間に漂う、絶対温度でおよそ10ケルビン(約マイナス263度)という極寒のガスと塵の雲です。

ここから導かれた結論は、次のようなものでした。現在の地球や太陽系に存在する水のかなりの部分は、円盤で新しく作られたものではなく、太陽が生まれる前の分子雲から受け継がれた氷がそのまま生き延びたものである。クリーブスらの見積もりでは、その割合は地球の海の水の**およそ30〜50%**に達するとされました。

この割合の水は、定義上、太陽そのものよりも古い、ということになります。

どこまでが確実で、どこからが研究途上か

ここで、確定していることと未確定なことを分けておきます。

比較的確からしいことは、地球の水の少なくとも一部が、太陽形成以前の星間環境に由来する、という大枠です。複数の研究がこの方向を支持しています。

一方で、30〜50%という具体的な数字は幅を持った推定値であり、確定した実測値ではありません。これはモデル計算から導かれたもので、円盤内の温度分布や反応経路の仮定によって変わりえます。「水の何パーセントが太陽より古いか」を小数点まで言い切れる段階には、2026年時点でも至っていません。

この問題をさらに複雑にしているのが、彗星の観測です。欧州のロゼッタ探査機は、2014年から2016年にかけて**チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)**に密着し、搭載機器ROSINAでその水のD/H比を測定しました。すると、地球の海水の3倍ほども重水素に富んだ値が得られたのです。

これは、「地球の海は彗星が運んできた」という単純な図式が成り立たないことを示しました。彗星ごとにD/H比はばらつき、地球の海水に近い値を示す彗星もあれば、67Pのように大きく外れる彗星もあります。地球の水が、彗星・小惑星・原始の星間氷のどれをどんな割合で受け継いだのか。その配分は、いまも活発に議論されている研究テーマです。

結局、何がすごくて、何がまだ謎なのか

すごいのは、コップ一杯の水という日常の中に、太陽の誕生をまたぐ時間スケールが封じ込められていると、観測と計算から具体的に示せたことです。手がかりは派手な発見ではなく、水素という最もありふれた原子の、わずかな重さの違いでした。その指紋を冷たい分子雲までたどることで、私たちが飲む水の一部が46億年より古い起源を持つ、という結論に行き着いた。

まだ謎なのは、その「一部」が正確にどれだけなのか、そして地球の海がどの供給源からどんな配分で水を集めたのか、という部分です。彗星ごとのD/H比のばらつきは、その答えがひとつの単純な物語では片づかないことを告げています。

確かなのは、今朝のコップの中身が、太陽より長い旅をしてきた水を含んでいる、という事実です。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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