
降格された星が、9年越しに微笑んだ。
冥王星のハート:降格された星が9年越しに見せた素顔 2015年7月、人類は初めて冥王星の「顔」をはっきりと見ました。そ…

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今夜、窓の外を見上げたとき、いつもそこにある星がひとつ消えていたとしたら、どう感じるでしょうか。雲でも光害でもなく、空の一角が静かに暗くなっていくとしたら。これは怪談の導入ではなく、天文学者たちが真剣に研究を重ねるローグ惑星(自由浮遊惑星)という天体の話です。
「惑星とは恒星の周囲を公転するもの」——そう思い込んでいる人がほとんどではないでしょうか。地球が太陽を周回するように、惑星には必ず親となる恒星がある、という常識です。
ところが宇宙には、どの恒星にも属さず、銀河の暗黒空間を単独で漂う惑星が存在します。ローグ惑星(rogue planet)、または自由浮遊惑星と呼ばれるこれらの天体は、誕生時に何らかの理由で元の惑星系から弾き出されたか、あるいは恒星になりきれなかった天体だと考えられています。
この概念が科学的に真剣に議論されるようになったのは、比較的最近のことです。2000年代以降、赤外線観測技術が向上すると、若い星団の中に恒星を持たない惑星質量の天体が次々と発見されるようになりました。
決定的な成果のひとつが、2021年にヨーロッパ南天天文台(ESO)のチームが発表した報告です。おうし座とへびつかい座の方向にある一つの星形成領域だけで、少なくとも70個から170個ものローグ惑星が一度に発見されました。研究者たちの試算では、天の川銀河全体に数千億から数兆個のローグ惑星が漂っている可能性があるとされています。夜空に輝く恒星の数を上回るかもしれない、という規模の話です。
これだけの数が存在するとされながら、ローグ惑星の直接観測が難しい理由は明快です。彼らはほとんど光を発しないからです。
私たちが夜空に見る星はすべて、核融合によって自ら輝く恒星です。惑星は自ら光を出さず、月や火星が見えるのはあくまで太陽光を反射しているためです。親星を持たないローグ惑星には、反射させる光源がありません。宇宙の暗黒を背景に、暗黒そのものとして存在しているわけです。
表面温度について言えば、母星の熱を受けられないローグ惑星は、マイナス200℃を大きく下回る極寒の世界になると考えられています。大気があれば凍りつき、海があれば底まで凍結した状態です。
ただし、内部の話は別です。惑星の内部には、誕生時の余熱と放射性元素の崩壊によって生まれ続ける**地熱(内部熱)**が蓄えられています。地球の中心が今なお約6000℃を保っているように、十分に大きなローグ惑星であれば、表面が極寒であっても内部ではマグマが活動し続けている可能性があります。
この内部熱に注目する研究者の中には、分厚い氷の殻の下に液体の水が保たれた地下海が存在しうると唱える者もいます。地球の深海熱水噴出孔に生物が群れるように、太陽の光に一切依存しない生命の可能性です。現時点ではあくまで仮説ですが、惑星生物学の観点から真剣に検討されている考え方です。
光を発しない天体をどう発見するか——これが現代天文学の重要な課題のひとつです。
現在、ローグ惑星探索の主力手法となっているのが重力マイクロレンズ法です。アインシュタインの一般相対性理論が予言するこの現象では、質量を持つ天体がその重力で背後の恒星の光を一時的に増光させます。ローグ惑星が遠方の恒星の手前を横切ると、その恒星が数日間だけ明るくなる。光らない天体を、重力の影響として間接的に検出する方法です。
2023年から本格運用が始まったジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、赤外線で微弱な地熱を放つローグ惑星の直接撮像にも取り組んでいます。さらに2027年打ち上げ予定のNASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、その広い視野で数百個規模のローグ惑星を一挙に発見できると期待されています。
観測技術が進むほど、未解決の問いも増えています。
太陽系外縁に未発見の惑星質量天体が潜む可能性は、今も研究者の間で検討が続いています。
正確に伝えておきます。ローグ惑星が地球に直接衝突する確率は、宇宙空間の広大さを考えれば、天文学的に見てほぼゼロに近いとされています。
懸念されているのは、むしろ「すれ違い」の影響です。仮にローグ惑星が太陽系の近傍を通過するだけでも、その重力が太陽系外縁部のオールトの雲——無数の彗星が眠るとされる領域——を乱し、大量の彗星が内太陽系に降り注ぐ事態を引き起こしかねないと考えられています。直接衝突がなくとも、重力的な影響が長期的な問題になりうるわけです。
ローグ惑星の研究は、ここ20年で急速に進展しました。かつては仮説的な存在でしたが、現在では観測による実在の確認が積み重なり、銀河内の総数が恒星を上回るかもしれないという推定まで出ています。
一方で、個々のローグ惑星の軌道・組成・内部構造については、まだほとんどわかっていません。探索技術がようやく実用段階に入ったばかりで、統計的な議論はできても、個別の天体を詳しく調べる手段はまだ限られています。
夜空に見える星の数よりも多くの「見えない惑星」が銀河を漂っている可能性がある——その事実は、宇宙についての私たちの理解が、まだほんの入口にあることを示しています。光るものだけを観測してきた天文学は今、光らないものを見るための方法を本格的に整えつつあるところです。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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