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ボイド公開 更新 1

直径3億光年の「完全な虚無」にあるもの

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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直径3億光年の「完全な虚無」——うしかい座超空洞とは何か

宇宙のある一点に、本当に「何もない」領域がある

宇宙のある一点に望遠鏡を向け、長時間露光で撮影した写真があります。そこには星も銀河も、光の点ひとつも写っていません。ただ漆黒だけが広がっています。

これは機材の故障でも撮影ミスでもありません。そこには本当に何もないのです。直径およそ3億光年——地球から銀河系の端まで往復してもまだ何百回と足りない広さの空間に、銀河がほとんど存在しない領域が実在します。

これを**うしかい座超空洞(ボイド)**といいます。天文学者たちが "The Great Nothing"(偉大なる虚無)とも呼ぶ、宇宙でもっとも空疎な場所のひとつです。

宇宙の大規模構造——銀河は均一には分布していない

「泡状構造」の発見

20世紀半ばまで、多くの科学者は宇宙を「銀河が一様にばらまかれた空間」だと考えていました。塩を均等に振りかけたテーブルのように、どこを見ても似たような密度で星が散らばっているというイメージです。

この見方は1970年代から80年代にかけて、根本から覆されます。

天文学者たちが銀河までの距離を個別に測定し、宇宙の三次元地図を描き始めると、均一とはかけ離れた構造が浮かび上がりました。銀河は細長く連なり(これをフィラメントといいます)、その糸が交わる節には銀河が密集し(銀河団)、そして合間にはぽっかりと「穴」が空いていました。

宇宙は均一な塩ではなく、石鹸の泡に近い構造をしていたのです。銀河は泡の「膜」に沿って分布し、泡の「内側」は空洞になっている。この構造を宇宙の大規模構造、あるいは**コズミック・ウェブ(宇宙の網)**と呼びます。

うしかい座超空洞の発見

1981年、天文学者ロバート・カーシュナーらの研究チームが、うしかい座の方向に当時知られていた中でもとりわけ巨大な空洞を発見します。

当初の観測では、その直径はおよそ3億3000万光年。これは当時の理論が予測する空洞サイズをはるかに超えていたため、研究者たち自身が自分たちの測定を疑ったとされています。

地球からの距離はおよそ7億光年。光速でその距離を進んだ光が、今まさに私たちのもとに届いている——そういう尺度の場所です。

「97%の銀河が消えている」——空洞の密度を数字で見る

宇宙には一定の体積あたりの平均的な銀河数という基準があります。うしかい座超空洞の体積——直径3億光年を超える球に相当します——には、その基準で計算すると本来およそ2000個の銀河が存在しているはずでした。

ところが実際に観測された銀河は、わずか60個ほど

あるべき銀河の97%が存在しない計算になります。残った数十個の銀河は、互いに何千万光年も離れて広大な暗闇の中に点在しています。もしうしかい座超空洞のどこかに文明があったとすれば、長期間にわたって「自分たちのほかに宇宙に銀河はない」と考えたかもしれません。隣の銀河の光が届くには、あまりにも距離があるためです。

なぜこれほどの空洞が形成されたのか

ビッグバン直後の密度ムラが起点

この空洞の起源は、宇宙誕生の直後にあると考えられています。ビッグバンからわずかな時間が経過した宇宙には、密度のごくわずかなムラが存在していました。わずかに物質が濃い場所と、わずかに薄い場所です。

ここで重力が働きます。物質が濃い場所はその重力でさらに周囲の物質を引き寄せ、密度がますます高くなります。逆に薄い場所からは物質が流れ出し、ますます薄くなっていきます。この過程が137億年にわたって続いた結果が、現在の大規模構造です。

濃い領域はやがて銀河団へと成長し、薄い領域は空洞へと広がりました。**うしかい座超空洞は、物質が周辺の密集領域へと流れ出し続けた末に残った、いわば「重力の谷底」**にあたります。何かが消えたのではなく、物質が外側へ引き抜かれていった跡地といえます。

現代の宇宙論が直面している未解決問題

理論的な上限を超えるサイズ

ここからが、現在の天文学における難問です。

標準的な宇宙論モデルで計算すると、現在の宇宙年齢で形成できる空洞のサイズにはある理論的上限があるとされています。ところがうしかい座超空洞をはじめ、近年見つかった巨大構造の中には、その上限に達する、あるいは超えているとみられるものが含まれています。

これは、宇宙の成り立ちについて私たちが何か重要なことを見落としている可能性を示唆している、と指摘する研究者もいます。ただし、観測精度や理論モデルの解釈には現在も議論があり、確定的な結論には至っていません。

宇宙マイクロ波背景放射の「コールド・スポット」との関係

もうひとつ、注目されている謎があります。

宇宙にはビッグバンの残光である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)——138億年前の初期宇宙が放った電磁波が今も全天から届いています——が満ちていますが、その温度分布の中に説明のつかない異常な低温領域、コールド・スポットが存在します。

一説では、このコールド・スポットは地球と背景放射のあいだに位置する超巨大な空洞(スーパーボイド)が原因ではないかと考えられています。光が膨張しつつある巨大な空洞を通過する際に微量のエネルギーを失い、温度が低く観測される——この効果は積分ザックス・ヴォルフェ効果と呼ばれます。

ただし、この仮説とコールド・スポットの関係についても確定的な結論は出ておらず、現在も研究が続いています。

ダークエネルギーの性質を探る手がかりとしての空洞

宇宙の膨張を加速させている正体不明のエネルギー、ダークエネルギーも、空洞の形成と深く関わっていると考えられています。空洞の形状や大きさを精密に測定することは、ダークエネルギーの性質を探る数少ない手がかりのひとつとされています。「何もない場所」が宇宙最大の謎に迫るための観測対象になっているというのは、やや逆説的ですが、現在の宇宙物理学が置かれている状況を端的に示しています。

私たちも「やや空いた領域」に位置しているという研究がある

視野を広げると、私たちの天の川銀河もまた、KBCボイドと呼ばれる比較的物質密度の低い領域に位置しているという研究があります。うしかい座超空洞ほど極端ではありませんが、宇宙規模で見れば私たちも「やや空いた場所」の住人である可能性が指摘されています。

宇宙の地図を広げると、私たちが立っている場所もコズミック・ウェブの膜の上の一点にすぎず、すぐ隣には巨大な空洞が存在しています。充実した構造と空疎な虚無は、宇宙では表裏一体の関係にあります。

まとめ——うしかい座超空洞が示す三つのこと

最後に、この空洞が現在の宇宙科学において持つ意味を整理します。

1. 宇宙の大規模構造の実例として:銀河が均一に分布しているのではなく、フィラメントと空洞が交互に組み合わさった網目状の構造をしているという事実を、もっとも極端な形で示す事例のひとつです。

2. 標準宇宙論モデルへの問いかけとして:その巨大さが理論的予測の限界に挑むケースとして、モデルの精度検証に用いられています。

3. ダークエネルギー研究の観測対象として:空洞の精密測定がダークエネルギーの性質解明につながる可能性があり、今後の観測プロジェクトで注目されています。

あの真っ暗な写真に写っているのは、宇宙の泡構造の「内側」であり、物質が流れ出した跡地であり、そして現代の宇宙論がまだ完全には説明しきれていない構造です。「何もない」ように見える領域が、これだけ多くの問いを含んでいるということ自体、宇宙観測の面白さのひとつといえます。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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