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聞いてはいけない「宇宙の音」3選

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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宇宙の「音」3選——土星・ブラックホール・彗星が発する電気振動の正体

深夜にヘッドホンをつけて、「土星から届いた音」と説明された音源を再生する。常識では、宇宙は完全な真空であり、音は存在しないはずです。空気がなければ振動は伝わらない——理科の授業でそう習いました。しかしこれから紹介する音源は、実在する宇宙探査機や天文台が記録した本物のデータをもとにしています。なぜそれが可能なのか、まずその仕組みを押さえておきましょう。

宇宙に「音」が存在できる理由:電磁波とプラズマ波

宇宙空間は確かに真空であり、私たちが知る「音」は伝わりません。音とは空気や水などの媒質の振動であり、分子がほとんど存在しない宇宙では、声を出しても隣の宇宙飛行士には届きません。映画の爆発音は演出です。

では「宇宙の音」とは何か。宇宙空間を満たしているのは、空気ではなく電磁波プラズマ波です。プラズマとは、原子が電子とイオンに分離した荷電粒子の状態を指します。太陽風も惑星の磁気圏も、その多くがプラズマでできています。荷電粒子が磁場の中で揺さぶられると、規則的な電気的な「うねり」が生じます。

探査機に搭載されたアンテナはこの電気的なうねりを記録します。その周波数が人間の可聴域(およそ20ヘルツから2万ヘルツ)に近い場合、あるいは科学者が音声信号へ変換(ソニフィケーション)した場合に、私たちは「宇宙の音」を耳にすることができます。

つまり、これから紹介する音は空気を伝わってきたものではありません。宇宙空間の電気的な振動を、人間の耳が理解できる形に変換したものです。この手法の歴史をたどれば、1950年代の電波天文学の黎明期に研究者たちが宇宙からの「雑音」に気づいた頃にまで遡ります。1967年にジョスリン・ベルが発見したパルサーの規則的な信号は、あまりに正確だったため、当初「LGM(Little Green Men)」と冗談半分に呼ばれたほどでした。

土星の電波放射(SKR):カッシーニが記録した不規則な信号

最初に紹介するのは土星の音です。

2004年から2017年まで土星を周回したNASAとESAの探査機カッシーニは、土星の北極上空で生じる強烈な電波放射、通称**SKR(Saturn Kilometric Radiation、土星キロメートル波)**を記録しました。土星の極域では太陽風と磁場が激しくぶつかり合い、オーロラとともにこの電波が放たれています。

科学者がその信号を音声化すると、金属が軋むような甲高い音、デジタル機器が誤作動したときのようなノイズ、そして時折混じる不協和音が聞こえてきます。荘厳な惑星のイメージとはかけ離れた、不安定な響きです。

さらに注目すべき点があります。SKRの周期は土星の自転と関係しているとされながらも、北半球と南半球でわずかに異なる周期を示し、季節とともに変動していたのです。これは土星の「一日の長さ」の測定を難しくするほど複雑な挙動で、現在も研究が続けられています。信号の美しさではなく、その不規則さが、科学的な謎の入り口になっています。

ブラックホールの圧力波:57オクターブ下のB♭音

次は、ブラックホールが周囲のガスに生み出す音波です。

地球から約2億5000万光年離れたペルセウス座銀河団の中心には、超大質量ブラックホールが存在します。NASAのチャンドラX線観測衛星は、このブラックホールが周囲の高温ガスに送り出す圧力波を検出しました。銀河団を満たす希薄なガスが媒質となり、そこに波紋が広がっていたのです。これは宇宙で実際に「音が伝わる」数少ない例の一つです。

問題は、その音の高さです。観測された音波は**ピアノの中央のドより約57オクターブも低い変ロ音(B♭)**でした。人間の可聴域をはるかに下回る低さで、1サイクルが完了するのに約1000万年かかるとされています。

2022年、NASAはこの圧力波を可聴域まで57〜58オクターブ引き上げて公開しました。聞こえてきたのは、地の底から響くような唸り声、巨大なものが緩やかに振動しているような低音です。この音源はSNSで「世界で最も恐ろしい音」などと評され、広く拡散しました。

人間が低周波の音を不安と結びつけるのは、地鳴りや大型動物の唸り声など、低音が危険の予兆として機能してきた歴史があるからだという説があります。この音源がそれほど強い反応を引き起こすのは、そうした生物的な反応と無関係ではないかもしれません。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の磁気振動:ロゼッタが検出した「歌」

最後に、解釈が最も難しい音を紹介します。

2014年、ESAの探査機ロゼッタは人類史上初めて彗星に着陸機を送り込みました。その過程で、対象のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(通称67P)の周囲で、磁力計が規則的な振動を検出しました。

周波数はおよそ40〜50ミリヘルツで、人間の可聴域の約1万分の1です。研究者が周波数を約1万倍に引き上げて音声化したところ、クリック音や不規則な振動音が流れ出しました。単調なノイズではなく、何らかのリズムを持つような響きです。

最終的な解釈は、彗星から噴き出した中性粒子が太陽光でイオン化され、周囲の磁場と相互作用してプラズマの不安定性を引き起こしているというものです。しかし正確なメカニズムは現在も完全には解明されていません。 また、なぜ67Pがこれほど明確な振動を示したのかも明らかになっていません。宇宙の音源の中で、この彗星の信号が科学的に最も未解決な部分を残していると言えます。

ソニフィケーション:恐怖の音源が持つ科学的な意義

これらの音は、単なる怖いもの見たさのコンテンツではありません。ソニフィケーション(データの音声化)は、現在も発展を続ける科学的手法です。膨大な観測データを目で追うより、耳で聴いたほうが異常やパターンに気づきやすい場合があります。

視覚に障害のある天文学者がこの技術を活用し、ブラックホールやガス雲の構造を「音」として解析している事例もあります。私たちが不気味に感じる重低音やノイズは、研究者にとっては宇宙の物理を読み解くためのデータです。

将来的に探査機が太陽系外に進出すれば、プラズマの振動パターンは未知の環境を把握するための情報源になる可能性もあります。今私たちが聴いているこれらの音源は、宇宙の物理現象と人間の感覚をつなぐ、具体的な接点です。

まとめ:3つの音源でわかること・まだわからないこと

土星のSKR、ブラックホールの圧力波、67Pの磁気振動。三つとも、宇宙の物理現象が電気的・磁気的な振動としてデータに記録され、人間の可聴域に変換されたものです。

わかっていることとしては、それぞれの発生源(磁場とプラズマの相互作用、銀河団ガス中の圧力波、彗星周辺のイオン化)と、およその周波数・周期があります。まだわかっていないこととしては、土星のSKR周期が南北で異なる詳細な理由、67Pの振動の完全なメカニズム、そして他の彗星ではなぜこれほど明確な信号が見られないのかという点が挙げられます。

宇宙はただ物理法則に従って振動しており、人間が現れる以前からそうであり続けています。私たちは機械を通じてその一端を記録できるようになったにすぎませんが、それだけでも、まだ解明されていない部分が相当数あることが見えてきます。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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