
降格された星が、9年越しに微笑んだ。
冥王星のハート:降格された星が9年越しに見せた素顔 2015年7月、人類は初めて冥王星の「顔」をはっきりと見ました。そ…

YouTube Shorts
記事本文
2つの光の粒子が生まれ、それぞれ反対方向へ引き離されていきます。距離はやがて100億光年にまで広がります。
そこで手元に残った一方の粒子の性質を測定する。すると、100億光年の彼方にあるもう一方の粒子が、まさに同じ瞬間に応答する。光がその距離を渡るには100億年かかるはずなのに、です。
アインシュタインはこれを「不気味な遠隔作用」と呼び、その実在を最後まで認めませんでした。しかし実験は、この奇妙な現象が物理的な現実であることを示してきました。光速を超えているように見えながら、相対性理論には違反しない。その理由を順を追って説明します。
20世紀初頭の物理学は、二つの大きな理論によって塗り替えられました。一つはアインシュタインの相対性理論、もう一つは極微の世界を記述する量子力学です。
量子力学が描き出したのは、直感に反する世界です。電子や光子などの素粒子は、観測されるまで「どちらの状態にもある」という確率的な状態(重ね合わせ)にあり、測定して初めて一つの状態に確定するとされています。
サイコロの目は振る前から決まっている、と私たちは考えます。しかし量子力学の記述では、サイコロは振って蓋を開けるその瞬間まで、全ての目が重なり合っています。「神はサイコロを振らない」というアインシュタインの言葉は、この確率的な解釈への違和感から生まれたものです。
1935年、アインシュタインはボリス・ポドルスキー、ネイサン・ローゼンとともにEPRパラドックスと呼ばれる論文を発表しました。量子もつれという概念が本格的に議論の俎上に載った最初の機会です。
彼らの論点はこうです。もつれた状態にある2粒子は、一方を測定した瞬間にもう一方の状態が決まる。距離に関わらず。これが事実なら、情報が光速を超えて伝わることになり、相対性理論と矛盾する。ゆえに量子力学は不完全であり、私たちがまだ知らない隠れた変数——粒子の状態をあらかじめ定めた「設計図」のようなもの——が実在するはずだ、と。
量子もつれを理解するための比喩として、特殊なコインのペアを考えます。
通常のコインは、投げる前から表か裏かが決まっています。ところが「もつれたコイン」のペアは、開いて確認するまでどちらの面かが確定しておらず、両方の状態が重なっています。一方を開いて「表」だと確認した瞬間、どれほど遠く離れていても、もう一方は必ず「裏」に確定します。
ここで重要なのは、事前にどちらが表になるか決まっていないという点です。測定という行為自体が、2つの粒子の状態を同時に確定させる。この「事前に決定していない」という性質が、後の実験で決定的な意味を持ちます。
隠れた変数が存在するのか、それとも量子力学の確率的な記述が正しいのか。この問いは長い間、実験で検証できないと考えられていました。
この状況を変えたのが、北アイルランド出身の物理学者ジョン・スチュワート・ベルです。1964年、彼は重要な定理を導きました。もし隠れた変数が存在するなら、もつれた粒子ペアを大量に測定したとき、その相関の強さにはある数学的な上限がある。これがベルの不等式です。
逆に言えば、実験結果がこの上限を超えれば、隠れた変数は存在せず、量子力学の記述が正しいことになります。哲学的な論争が、測定可能な数値の問題に姿を変えました。
1970年代から80年代にかけて、物理学者たちはこの検証に取り組みました。特に注目されるのが、フランスのアラン・アスペによる1982年の実験です。もつれた光子ペアを大量に生成し、その偏光を測定した結果、実験値はベルの不等式を統計的に疑いようのない精度で超えたのです。
宇宙には「隠れた設計図」は存在しなかった。測定するまで粒子の状態は確定しておらず、一方の測定がもう一方を瞬時に確定させる。「不気味な遠隔作用」は思考実験ではなく、物理的な現実でした。
2022年、アスペはジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーとともにこの研究によってノーベル物理学賞を受賞しました。
量子もつれが「瞬時」に作用するように見えるなら、光速を超えた通信に使えるのではないか。この疑問は自然ですが、答えはノーです。量子もつれを使って、いかなる情報も光速を超えて伝えることはできません。
理由は、測定結果が完全にランダムであることにあります。手元の粒子を測定すると、結果は50%の確率で「表」か「裏」のどちらかになり、測定者には制御できません。遠方の粒子は確かに瞬時に呼応しますが、そちらも同様にランダムな結果を示すだけです。
相手は自分の粒子を見るだけでは、こちらが「いつ」「どう」測定したかを知ることができません。二者がそれぞれ得た結果を後から照合して初めて、相関していたことが分かる。そしてその照合には、通常の(光速以下の)通信が必要です。
冒頭の情景に戻ります。100億光年を隔てた2粒子が、一方への測定と同時に呼応する。その光景は確かに光速を超えているように見えます。
しかし、そこを通じて伝わるのは情報ではなく、相関です。2つの粒子は生成された時点で不可分の状態にあり、測定されることでその関係性が顕れます。何を測定されるかは誰にも操作できないため、相対性理論とは矛盾しません。
量子もつれは、現在では技術の基盤としても研究されています。
量子テレポーテーションは、物質を瞬間移動させる技術ではなく、もつれを利用して粒子の量子状態を別の場所へ転写する技術です。1997年に初めて実証され、2017年には中国の量子衛星**墨子号(Micius)**が地上と宇宙の間、約1,200キロメートルにわたって実現しました。
量子コンピュータでは、多数の量子ビットをもつれさせることで、従来のコンピュータには事実上解けない問題を現実的な時間で処理できる可能性があります。
量子暗号通信では、もつれの性質が盗聴検知の仕組みとして機能します。第三者が通信を傍受しようとして粒子を測定すれば、もつれた状態が破壊され、その痕跡が必ず残ります。盗聴が原理的に検知できるという特性です。墨子号は北京とウィーンの間、約7,600キロメートルを結ぶ量子暗号通信も実証しています。
将来的には、量子もつれを基盤とした通信ネットワーク「量子インターネット」の構想も各国で研究が進んでいます。
これほど応用が進んでも、量子もつれの根本的な「なぜ」は解明されていません。測定の瞬間に何が起きているのか、重ね合わせはどのようにして一つの状態に確定するのか。観測問題と呼ばれるこの問いは、物理学の未解決問題の一つです。
近年では、量子もつれと重力を統一的に扱おうとする「ER=EPR」という仮説も議論されています。ブラックホール同士をつなぐ時空のトンネル(ワームホール)と量子もつれが、同じ現象の異なる側面ではないかという考え方です。ただし、これはまだ仮説の段階であり、検証には至っていません。
量子もつれの核心は次の3点に整理できます。
アインシュタインが欠陥の証拠と見なしたこの現象は、半世紀後にノーベル賞で評価されるほど確かな物理的事実として定着し、現在は量子暗号や量子コンピュータという具体的な技術へと応用されつつあります。
一方で、観測問題やER=EPR仮説が示すように、量子もつれが時空間そのものとどう関わるかは、依然として未解決のままです。最も基本的な問いに答えが出ていない領域でありながら、実用化が先行している——それが量子もつれという分野の現状です。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
Related
おすすめの宇宙観測YouTube Channel
この記事が役に立ったなら、チャンネル登録を
新着ショート動画をいち早くお届けします。