
降格された星が、9年越しに微笑んだ。
冥王星のハート:降格された星が9年越しに見せた素顔 2015年7月、人類は初めて冥王星の「顔」をはっきりと見ました。そ…

YouTube Shorts
記事本文
夜空に見える太陽は、直径139万キロメートルの巨体です。地球を109個並べて端から端まで届き、内部には地球が130万個収まります。私たちの日常感覚では、これ以上の「大きさ」はほとんど意味を持ちません。
ところが宇宙には、太陽をその名のとおり砂粒ほどに見せてしまう星が存在します。この記事では、現在知られている中で最大級の恒星の一つ、スティーブンソン2-18を取り上げ、その規模と、「最大」という称号に伴う不確かさの両方を整理します。
古代の人々にとって、星は天球に貼りついた光の点にすぎませんでした。距離も大きさも測りようがなく、ただ遠い存在だったのです。
状況が変わったのは、わずか200年ほど前のことです。1838年、ドイツの天文学者フリードリヒ・ベッセルが、はくちょう座61番星までの距離を「年周視差」を使って初めて測定しました。年周視差とは、地球が太陽の周りを回ることで星の見える方向がわずかにずれる現象です。これによって、星までの距離という途方もない数字が、ようやく科学の土台にのりました。
距離がわかれば、見かけの明るさから本当の明るさ(光度)が計算できます。そして20世紀初頭、星の明るさと表面温度の関係を示す**ヘルツシュプルング・ラッセル図(HR図)**が完成すると、天文学者たちは星の半径も推定できるようになりました。星の表面積が大きいほど、同じ温度でも多くの光を放つという物理法則が、星のサイズを測る鍵となったのです。
こうして人類は、太陽が決して標準的な大きさの星ではないことを知ります。宇宙には、太陽の何十倍、何百倍という直径を持つ星が数多く存在していたのです。
夜空にも代表的な例があります。オリオン座の肩で赤く輝くベテルギウス。この星の直径は太陽のおよそ700倍で、もし太陽の位置に置けば火星の軌道を飲み込む大きさです。さそり座のアンタレスも太陽の700倍を超える赤色超巨星として知られています。
しかし、これらの星でさえ、より遠方に存在する赤色超巨星の前では規模が及びません。
スティーブンソン2-18(Stephenson 2-18)は、たて座の方向、地球からおよそ1万9000光年かなたにある赤色超巨星です。
この星の半径は、太陽のおよそ2150倍と推定されています。直径にして約30億キロメートル。数字だけでは把握しにくいので、太陽系との比較で整理します。
別の角度からも見てみます。光は1秒間に約30万キロメートル進みます。この速さで太陽の表面を一周するには約14.5秒かかります。同じ光がスティーブンソン2-18の表面を一周しようとすると、8時間半以上かかる計算になります。
なぜ星はこれほど巨大になれるのでしょうか。鍵は星の進化の段階にあります。
太陽のような星は、中心で水素をヘリウムに変える核融合でエネルギーを生み出しています。中心部の水素が枯渇すると、中心核は収縮して高温になる一方、外層は逆に膨張を始めます。これが赤色超巨星です。質量の大きな星ほどこの過程が激しく進み、外層は希薄で巨大な状態にまで膨れ上がります。
スティーブンソン2-18の平均密度は太陽の約10億分の1とされており、地上の真空状態よりもなお希薄です。巨大な外見とは裏腹に、その実体はきわめて低密度なガスの塊です。
スティーブンソン2-18はしばしば「現在知られている中で最大級の星」として紹介されますが、「宇宙最大」を確定することは、現在の天文学でも容易ではありません。
理由は二つあります。第一に、これほど遠い星の距離測定には大きな誤差が伴います。距離の推定値が変われば、そこから計算される半径も大きく変動します。第二に、赤色超巨星の表面は明確な境界を持ちません。希薄なガスの外縁をどこで「表面」とみなすかによって、サイズの値は変わってしまいます。
実際、スティーブンソン2-18の半径2150倍という推定値については、研究者によって異論があります。観測手法やモデルの前提によっては、より小さい値を支持する推定も存在します。かつて「最大」とされた**UY Scuti(たて座UY星)**も、近年の再測定で推定値が下方修正された経緯があります。このように、最大の座は観測技術が進むたびに静かに更新されています。
では、星はどこまでも大きくなれるのでしょうか。理論的には上限があると考えられています。
赤色超巨星の大きさは、星の質量と、外層がどこまで安定して膨らんでいられるかという物理条件によって決まります。外層が膨張し続けると、やがて星の重力で繋ぎとめることができなくなり、質量放出によって剥がれ落ちていきます。理論計算では、赤色超巨星の半径はおおむね太陽の1500倍前後が安定の目安とされており、それを大きく超える天体は膨張と崩壊の境界付近にある不安定な状態とみられています。
スティーブンソン2-18のような星は、進化の最終段階で最大限に外層を広げた状態にあると考えられます。
近年、干渉計と呼ばれる技術——複数の望遠鏡を連携させ、巨大な一つの望遠鏡として機能させる手法——によって、遠い星の表面を直接捉える試みが進んでいます。ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTは、ベテルギウスの表面の対流模様まで描き出しました。
こうした技術がスティーブンソン2-18のようなより遠方の星にも適用できるようになれば、現在の推定値の精度は大きく向上するはずです。「宇宙最大の星」という称号が誰のものであるかは、まだ確定していません。現時点ではスティーブンソン2-18が有力な候補の一つですが、今後の観測によって更新される可能性があります。
スティーブンソン2-18の規模を知ると、太陽という私たちにとって最も身近な恒星が、宇宙的な文脈ではきわめて平均的な存在であることが実感できます。地球はその太陽よりさらに小さく、スティーブンソン2-18との比較では計算の誤差にも満たないスケールです。
同時に確認しておきたいのは、この星の存在をわかっているという事実そのものです。1万9000光年かなたにある低密度のガス天体を、地球上の観測装置が捉え、その半径を推定できている。精度に課題はあるにせよ、このスケールの計測が可能になったのは、年周視差の測定が始まった1838年からわずか200年足らずの話です。
スティーブンソン2-18が今この瞬間も放ち続けている光は、1万9000年かけてようやく地球に届いています。その光が観測データとなり、私たちはこの星の大きさを数字として語れる。何がわかっていて、何がまだわかっていないかも含めて、それが現在の天文学の到達点です。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
Related
おすすめの宇宙観測YouTube Channel
この記事が役に立ったなら、チャンネル登録を
新着ショート動画をいち早くお届けします。