生まれたての星は「くしゃみ」で育つ。 のサムネイル
星形成公開 更新 1

生まれたての星は「くしゃみ」で育つ。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

YouTube Shorts

Share

記事本文

生まれたての星が磁束を爆発的に放出する「ベビースニーズ」現象

星の誕生を阻む二つの物理的障壁

夜空に輝く星はどこから来るのか。その答えは、宇宙空間に漂うガスと塵の雲、分子雲にあります。水素分子を主成分とするこの雲は、1立方センチメートルあたり数百〜数万個の分子しか含まない極めて希薄な空間ですが、宇宙のスケールでは膨大な質量を持ちます。

この雲の中で密度の高い領域が自重で収縮し始めると、中心にガスが集まって温度が上昇し、原始星(プロトスター)——星の卵——が誕生します。収縮にともなって回転が加速するため、落下してきたガスと塵は円盤状に渦巻き、原始惑星系円盤を形成します。この円盤が、後に惑星が生まれる舞台となります。

ところが、この過程には古くから指摘されてきた二つの矛盾があります。一つは角運動量問題——収縮にともなって回転が速くなりすぎると、ガスが中心まで落ちきれず吹き飛んでしまう問題。もう一つは磁束問題——分子雲がもともと持つ弱い磁場が、収縮によって強くなりすぎ、計算上は円盤の形成そのものを妨げてしまう問題です。

「余分な回転と磁場をどこかへ逃がさなければ、円盤は安定して存在できない」。これが一世紀近く未解決のまま残されてきた問いでした。

ALMA望遠鏡が捉えた、円盤からのスパイク状構造

謎を解く手がかりをもたらしたのは、南米チリの標高約5,000メートルに設置された電波望遠鏡群**ALMA(アルマ)**による観測です。

研究チームが詳しく調べたのは、地球から約450光年離れたおうし座分子雲にある若い原始星**「MC 27(L1527)」**。誕生からわずか数万年——星の一生から見れば新生児に相当する、極めて若い天体です。

ALMAの観測が明らかにしたのは、この原始星を取り巻く円盤の表面から外側に向かって突き出す、複数の不規則なスパイク(突起)状の構造でした。その大きさは長いもので**1,000天文単位(AU)**にもおよびます。1天文単位は地球と太陽の距離(約1億5,000万キロメートル)に相当しますから、1,000AUは太陽から海王星までの距離の約30倍——太陽系全体がすっぽり収まるスケールです。

また観測では、スパイクの根元付近に周囲よりわずかに温度の高いリング状の構造も見つかっています。これは、磁束が解放された際に発生したエネルギーがガスを加熱した痕跡と考えられています。

磁気リコネクションが引き起こす「ベビースニーズ」現象

これらのスパイクのメカニズムについて、研究チームは次のように解析しています。

円盤の中にはガスとともに磁力線が大量に蓄積されます。磁場のエネルギーが限界に達すると、磁気リコネクション——磁力線が切断・再接続され、蓄積されたエネルギーが急激に解放される現象で、太陽フレアの原動力としても知られる——が起こります。この瞬間、円盤に蓄えられていた磁束がガスや塵とともに爆発的に外へ放出されます。

研究者たちはこの現象を、刺激をくしゃみで一気に吐き出す様子になぞらえ、**「ベビースニーズ(赤ちゃんのくしゃみ)」**と名づけました。

重要なのは、この現象が単なる副産物ではない点です。円盤に過剰に蓄積した磁束を能動的に放出することで、円盤の安定性が保たれ、惑星形成に適した環境が整うと考えられています。言い換えれば、磁束の放出は星の成長を妨げる要因を取り除くプロセスとして機能している可能性があります。

未解明の問い——頻度・惑星への影響・連星形成

この発見は星形成の理解を進める成果ですが、いくつかの重要な問いが残されています。

まず発生頻度です。今回観測されたのは一つの原始星における一時点の現象であり、ベビースニーズが一度きりの偶発的な出来事なのか、星が成長する過程で周期的に繰り返されるのかは、まだ明らかではありません。もし繰り返されるとすれば、そのリズムが星の最終的な質量や、形成される惑星の数に影響する可能性も考えられます。

次に惑星の材料への影響です。爆発的に放出されるエネルギーは、円盤内の塵を加熱し化学組成を変化させる可能性があります。私たちの太陽系も46億年前の幼少期に同様の現象を経ていたとすれば、地球をつくった材料もその影響を受けていたかもしれません。ただし、この点は現時点では推測の域にとどまります。

さらに研究者たちは、MC 27の近傍に別の小さな天体の卵が潜んでいる可能性——この領域が連星の誕生現場である可能性——も指摘しています。星は単独よりも、二つ一組で生まれるケースが少なくないとされていますが、そのメカニズムもまだ完全には解明されていません。

星形成の全体像解明に向けた今後の観測

ALMAをはじめとする電波・赤外線望遠鏡の性能向上により、今後さらに多くの若い原始星が詳細に観測されるようになるとみられています。ベビースニーズ現象が一般的な過程であるのか、それとも特定の条件下でのみ起こるのかを確かめるには、複数の天体での比較観測が必要です。

「星はいかにして生まれるか」という問いは、宇宙物理学の中でも長い歴史を持つテーマです。今回の観測は、その一側面——磁束の解消メカニズム——について具体的な描像を与えましたが、角運動量問題の全体的な解決には、さらなるデータの積み上げが求められます。

450光年の彼方、おうし座分子雲の内部では、今この瞬間にも星の卵が磁束を放出しながら成長を続けているとみられています。その一つひとつの観測が、星形成の全体像を少しずつ明らかにしていくことになるでしょう。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

PR編集部おすすめアイテム

Related

おすすめの宇宙観測

YouTube Channel

この記事が役に立ったなら、チャンネル登録を

新着ショート動画をいち早くお届けします。

チャンネル登録