
宇宙誕生4億年後、「あり得ない」ブラックホールが見つかった。
宇宙誕生4億年後に見つかった超大質量ブラックホール——理論が追いつかない発見 夜空に届く光は、過去の姿を伝えています。…

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夜空の中でいて座の方向に目を向けると、その奥およそ2万6000光年の彼方に銀河系の中心があります。そこに鎮座するのが、太陽の約400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール「いて座A*(エー・スター)」です。
ブラックホールという概念の出発点は1915年にさかのぼります。アルベルト・アインシュタインが一般相対性理論——重力を時空の歪みとして記述する理論——を発表すると、その方程式を解いたカール・シュヴァルツシルトが、質量を極限まで圧縮したとき光すら脱出できない「特異点」が生まれることを示しました。当時は数学上の解に過ぎないとみなされていましたが、後の観測がこれを現実として確認します。
銀河の中心は、可視光で見ることができません。星間に広がる濃いガスと塵が、中心部からの光を完全に遮るためです。そこで天文学者たちは、塵を貫通できる電波・赤外線・X線という波長帯を使って観測を行ってきました。
1990年代から2000年代にかけて、ラインハルト・ゲンツェルとアンドレア・ゲズは、それぞれ独立に銀河中心の狭い領域を20年以上にわたって追跡しました。そこで見えてきたのは、ある一点を複数の星が楕円軌道で、なかには秒速数千キロメートルという猛烈な速さで公転している姿でした。その軌道から逆算すると、中心天体の質量は太陽の約400万倍であり、しかも太陽系程度の非常に狭い空間に収まっている必要があります。これほどの質量をこれほど小さく詰め込む天体は、ブラックホールしか考えられません。この成果により、2人は2020年のノーベル物理学賞を受賞しました。
さらに2022年、国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」が、地球規模の仮想望遠鏡網を使っていて座A*そのものの撮影に成功します。オレンジ色に輝くリングとその中心の暗い領域として、ブラックホールの影が初めて画像として示されました。
いて座Aには、研究者が長年注目してきた特徴があります。他の銀河の中心には、周囲の物質を盛んに飲み込みながら莫大なエネルギーを放出する「活動銀河核(クェーサー)」が存在します。ところがいて座Aは、太陽の400万倍という質量を持ちながら、放射するエネルギーが驚くほど小さいのです。超大質量ブラックホールとしては異例なほどおとなしい天体と言えます。
しかしこれは、ずっとそうだったことを意味しません。
その手がかりは、いて座A*から数百光年離れた位置にある巨大なガス雲「いて座B2」から得られました。
日本のX線天文衛星「すざく」や、欧州の「XMM-Newton」、NASAの「チャンドラ」といった観測装置でこのガス雲を調べると、奇妙な現象が確認されました。ガス雲が自ら光を発しているのではなく、外部の強いX線源に照らされて反射しているような輝き方をしていたのです。これを「X線反響(リフレクション)」と呼びます。
光には速さの上限があります。いて座B2はいて座Aからおよそ300光年離れているため、ブラックホールが放ったX線がガス雲に届き、反射して地球に戻ってくるまでには相応の時間差が生じます。この時間差を使って研究者が「こだま」を逆算したところ、今からおよそ200年前から数百年前の時期に、いて座Aは現在の少なくとも数十万倍から100万倍の明るさで輝いていたとの結論に至りました。
つまり江戸時代後期のころ、銀河の中心ではいて座A*が突如として活性化し、凄まじいX線の閃光を放っていたとみられます。その光が今、300光年先のガス雲を照らし続けており、その残響が現在の観測装置に届いているわけです。
何がいて座A*を目覚めさせたのかについては、まだ確定した答えはありません。有力な仮説のひとつは、ブラックホールに星や巨大なガス塊が落下したというものです。特に、星がブラックホールに近づきすぎて強烈な潮汐力で引き裂かれる「潮汐破壊現象」が起きた可能性が議論されています。ただし、これはあくまで仮説の段階です。
いて座A*の研究は、過去の閃光の解明にとどまりません。最新の観測では、現在も不規則な明滅が続いていることが確認されています。
2024年には、NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による赤外線観測が、いて座A*周辺の降着円盤——ブラックホールに落ち込む物質が渦を巻く高温の円盤——において、1日に数回の大きなフレアと絶え間ない小さな明滅が繰り返されていることを捉えました。この明滅に規則性はなく、磁場の絡まりと突然の解放が関係していると考えられていますが、詳細なメカニズムはまだ解明途上です。
また、銀河中心の上下方向に広がる「フェルミ・バブル」と呼ばれる構造も注目されています。X線とガンマ線で輝くこの巨大な泡構造は差し渡し約5万光年に達し、過去のいて座A*による大規模な活動あるいはジェット噴出の名残ではないかとする説があります。もしそうであれば、200年前の閃光は、数百万年規模で繰り返されてきた活動サイクルの、比較的最近の一例に過ぎないことになります。ただしこの解釈も、現時点では仮説のひとつです。
いて座A*の研究は、宇宙の歴史を理解するうえで重要な意味を持ちます。超大質量ブラックホールの質量と、それを取り巻く銀河の星々の総量との間には明確な相関関係があることが知られており、ブラックホールの活動が銀河全体の星形成の速度に影響を与えると考えられています。ブラックホールが活性化して放つエネルギーは周囲のガスを吹き飛ばし、新たな星が生まれるペースを変えます。
つまり、銀河内でいつどこで星が生まれるかという過程に、中心のブラックホールが深く関わっているわけです。太陽を含む星々がどのように生まれてきたかを追うと、銀河中心の活動の歴史へとつながっていきます。
現時点でわかっていることをまとめると、以下のとおりです。
一方で、何が200年前の閃光を引き起こしたのか、フェルミ・バブルとの関係、ジェット活動の有無など、多くの点は依然として解明されていません。イベント・ホライズン・テレスコープによる高分解能観測や、次世代のX線・赤外線望遠鏡による継続的な監視が、これらの謎に答えをもたらすことが期待されています。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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