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重力波公開 更新 1

それは、星の死の、さらにその先にあった。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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金の起源:中性子星の衝突と重元素の合成

指輪に使われている金は、どこで生まれたのでしょうか。その答えは、星の内部核融合では説明がつかず、長らく天文学の難問のひとつでした。近年の観測によって、その主要な生成場所がかなり確からしく特定されています。

宇宙初期には、金も鉄も存在しなかった

宇宙が誕生した直後、存在していた元素は水素ヘリウムだけです。炭素も酸素も鉄も、もちろん金も、その時点では宇宙に存在しませんでした。

では、現在の地球や生命を構成する92種類の天然元素はどこで生まれたのでしょうか。1957年に発表された通称「B²FH論文」(4人の著者の頭文字に由来)は、この問いに対する体系的な答えを初めて示しました。星はその内部で核融合反応を起こし、水素からヘリウム、ヘリウムから炭素、炭素から酸素、と段階的により重い元素を合成していきます。星は、いわば宇宙における元素の「製造場所」です。

しかし、この理論には大きな空白がありました。鉄よりも重い元素、つまり金・銀・プラチナ・ウランといった元素は、通常の星の核融合では作れないのです。鉄より重い元素を合成するには、エネルギーを生み出すどころか、逆に大量のエネルギーを外部から投入する必要があります。通常の恒星環境ではその条件が満たされず、金の起源は長年にわたって未解明のままでした。

中性子星:超高密度の「死んだ星」の特性

謎を解くカギは、重い星が一生の末に迎える「死後の姿」にあります。

太陽の8倍以上の質量を持つ星は、その最期に超新星爆発を起こします。このとき星の中心部は極限まで圧縮され、電子と陽子が合わさって中性子だけからなる天体、中性子星が生まれます。

中性子星の密度は極端なもので、直径約20kmという太陽系内の天体としてはきわめて小さな体積の中に、太陽に匹敵するほどの質量が詰まっているとされています。その物質をスプーン一杯分すくった場合、重さは約10億トンにのぼるという試算があります。

重い元素を合成するには、原子核に中性子を大量かつ短時間で叩き込む反応、「r過程(急速中性子捕獲過程)」が必要です。中性子が密集した中性子星は、このr過程が起きうる物質的条件を備えていると考えられてきました。問題は、その物質をどのように宇宙空間へ放出するかです。

2つの中性子星の合体が、金を作り出す

中性子星が連星(2つの天体が互いの重力で公転し合う系)を形成している場合、軌道エネルギーが重力波として宇宙空間に逃げ続けることで、2つの天体は少しずつ接近していきます。数億年から数十億年をかけて螺旋を描くように近づき、最終的に秒速数万kmで衝突・合体します。

この合体の際、中性子に富んだ物質が宇宙空間へ大量に放出され、そこでr過程が爆発的に進行するとされています。試算では、この一回の合体で地球数百個分に相当するとも言われる量の金が生成されうるとされています。放出された物質は、放射性元素の崩壊熱を帯びながら膨張します。この現象を天文学ではキロノヴァと呼びます。

2017年、理論が初めて直接観測された

中性子星合体と重元素生成の理論は長らく仮説にとどまっていましたが、2017年8月17日、初めての直接的な観測証拠が得られました。

重力波観測装置「LIGO」(アメリカ)と「Virgo」(ヨーロッパ)が、約1億3000万光年離れた場所で発生した中性子星合体の重力波を検出しました。重力波到達の約1.7秒後にはガンマ線バーストも確認され、続いて世界中の望遠鏡がキロノヴァの光を可視光で観測することに成功しました。

放射された光のスペクトル分析により、そこに金やプラチナが新たに生成されていることを示す証拠が確認されました。これは、ひとつの天体現象を重力波と電磁波(光)の両方で同時に観測した史上初の事例であり、マルチメッセンジャー天文学と呼ばれるアプローチの大きな成果です。

まだ解明されていないこと:金の「工房」は一つではないかもしれない

2017年の観測によって中性子星合体が金の主要な生成源であることは強く示唆されましたが、物語はここで完結していません。

近年の研究では、宇宙に存在する金の総量を中性子星合体だけで説明しようとすると、合体の頻度と生成量が合わない可能性が指摘されています。「他にも生成経路があるのではないか」という問いが、現在進行中の研究課題となっています。

候補の一つとして挙げられているのが、強磁場を持ち高速回転する特殊な中性子星「マグネター」です。2024年には、マグネターのフレアが重元素を生成しうるという研究が報告されています。現時点で、宇宙の金がどの程度の割合でどの現象から生まれたかを定量的に説明する「完全な答え」はまだ得られていません。

金という元素が示す、宇宙史のスケール

改めて、指輪の金の話に戻ります。

その金を構成する原子は、太陽系が形成される以前、宇宙のどこかで起きた中性子星の合体によって生成されたと考えられています。キロノヴァによって宇宙空間に放出された元素の雲は長い時間をかけて拡散し、やがて太陽系を形成する材料の一部になりました。その原子の一部が地殻に集まり、採掘され、加工されて現在に至ります。

星の核融合でできた鉄が血液中のヘモグロビンに使われ、同じく核融合でできた酸素を私たちは呼吸しています。金だけは、そうした星の「生きている時間」ではなく、死んだ星同士の衝突という、さらに極端な出来事の産物です。

私たちの身体と持ち物に刻まれた元素の来歴は、宇宙の歴史そのものでもあります。そしてその歴史は、まだ完全には解明されていません。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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