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地球は「水の惑星」と呼ばれます。表面積の約7割を海が覆い、深さ11キロメートルに達する海溝まで抱えています。しかし太陽系全体に目を向けると、水の総量という点では地球はトップではありません。
地球から6億キロメートル以上離れた場所に、体積にして地球の全海洋の約2倍もの液体の水を内部に持つとされる天体が存在します。木星の衛星、エウロパです。
エウロパが発見されたのは1610年。ガリレオ・ガリレイが自作の望遠鏡を木星に向け、周囲を回る4つの衛星(ガリレオ衛星)を確認したときのことです。ただし当時は、ただ木星のそばを回る小さな点として観測されたにすぎませんでした。
エウロパが「内部に海を持つかもしれない天体」として注目されるようになったのは、20世紀後半の探査機による観測がきっかけです。1979年のボイジャー探査機、そして1995年から木星系を周回したガリレオ探査機が、エウロパの表面の詳細なデータを地球に送ってきました。
科学者たちが注目したのは、表面の状態でした。太陽系の古い天体は一般に無数の衝突クレーターを持ちますが、エウロパの表面にはクレーターが非常に少ない。これは、表面が地質学的に「若い」、つまり何かが継続的に表面を更新していることを示す証拠と解釈されました。
また表面には赤茶色の筋状の模様(リネア)が走っており、氷が割れ、何らかの物質が染み出し、再凍結するというサイクルが繰り返されているように見えました。地球の北極海の氷の動きと似たこの光景は、氷の下に液体の水が存在する可能性を強く示唆するものでした。
現在の推定によると、エウロパの表面はおよそ15〜25キロメートルの厚さの氷で覆われています。表面温度はマイナス170℃近くに達し、氷は岩石に匹敵する硬さで凍りついています。
その氷殻の下に、液体の水でできた海が広がっているとされています。推定される深さは60〜150キロメートルで、地球で最も深いマリアナ海溝(約11キロメートル)をはるかに上回ります。直径が地球の約4分の1しかない小さな衛星が、地球の全海洋の約2倍もの水を内包しているとされる点は、当初は受け入れがたいほど意外な事実でした。
では、太陽から遠く離れたこの衛星の内部で、なぜ水が液体を保っていられるのでしょうか。
その主な要因として挙げられているのが、潮汐加熱という現象です。エウロパは巨大な木星の重力に常に引かれており、さらに隣接する衛星イオやガニメデの重力も加わることで、公転のたびにわずかに変形を繰り返しています。この周期的な変形が内部に摩擦熱を生じさせ、氷を溶かし続けるエネルギー源になっているという考え方です。
加えて、海底では地熱によって温められた熱水噴出孔が存在する可能性も議論されています。地球の深海底に存在する熱水噴出孔が、太陽光に依存しない独自の生態系を育んでいることは知られています。エウロパの海底でも類似した環境が形成されているとすれば、それは生命の存在可能性を考えるうえで重要な条件になります。
生命の誕生に必要な条件として、しばしば「液体の水・有機物・エネルギー源」の三つが挙げられます。エウロパはこの三つを満たしている可能性があるとして、太陽系内で最も生命探索の関心が高まっている天体の一つです。
近年の観測では、ハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、エウロパの表面から水蒸気のプルーム(噴煙)が宇宙空間に噴き出しているとみられる兆候を捉えています。これが確認されれば、厚い氷を掘削せずとも、探査機がプルームの中を通過するだけで内部海の成分を直接分析できる可能性があります。
また2023年には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がエウロパ表面に二酸化炭素の存在を確認し、その由来が内部海である可能性が示されました。生命の材料となる炭素が海の中にある可能性を支持する一つの証拠として位置づけられています。
ただし、多くのことはまだ確定していません。氷殻の正確な厚さ、海と岩石質の海底が直接接触しているかどうか(これは化学反応の観点から重要な条件です)、プルームの実態、そして生命が実際に存在するかどうか。これらの問いに対して、現時点では明確な答えがありません。
これらの謎に答えを出すため、現在二つの探査ミッションが進行中です。
2023年に欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げたJUICE(木星氷衛星探査機)、そして2024年にNASAが打ち上げたエウロパ・クリッパーです。エウロパ・クリッパーは2030年代に木星系へ到達し、エウロパへの複数回の接近飛行を通じて、氷殻の厚さ、海の存在、そして生命に適した環境かどうかを調べる計画です。
これまでの生命探索は、太陽に適度に近い「ハビタブルゾーン」にある惑星を中心に進められてきました。エウロパの存在は、その前提を見直す契機になっています。
太陽光が届かない遠い天体でも、潮汐加熱によって内部に液体の水を保てるならば、生命が成立しうる環境は太陽系のはるかに広い範囲に分布している可能性があります。そしてその視点は太陽系の外にも広がります。他の恒星系にも、恒星から遠く離れた位置に凍った衛星が存在するとすれば、生命探索の候補天体の数は大幅に増えることになります。
エウロパに生命が見つかるかどうかはまだわかりません。ただ、この衛星の探査は、「どこに生命を探すか」という問いそのものを更新する可能性を持っています。クリッパーをはじめとする探査機が詳細なデータを送ってくるのは、2030年代以降になる見込みです。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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