
地球の自転が止まった時の衝撃
地球の自転が止まったら何が起きるか 私たちは今も時速1,400キロで移動している この床は静止しているように感じられ…

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あなたが立っているその場所の、はるか足元5100km。そこには、月よりやや小さい、固体の鉄でできた巨大な球体があります。地球の「内核」と呼ばれるこの構造が、回転の向きを変えたかもしれない——そう主張する研究が2023年に発表され、広く注目を集めました。
ただし結論を先にお伝えすると、これはまだ議論が続いている研究上の仮説です。地球が崩壊するわけでも、生活に影響が出るわけでもありません。何がわかっていて、何がまだわかっていないのかを整理しながら、地球の深部科学の現状を見ていきます。
人類がこれまでに掘削した最も深い孔は、ロシアのコラ半島超深度掘削坑の約12.3kmです。地球の半径が約6371kmですから、内部の大部分は今なお直接観測できていません。
では地球内部の構造がなぜ語れるのかというと、鍵は地震波にあります。大きな地震の振動は、地球内部を伝わって反対側まで届きます。この波は、固体と液体の境界、硬さが異なる層の境目で速度を変えたり、反射・屈折したりします。世界中の地震計がその「届き方のパターン」を記録し、研究者はそこから地球内部の層構造を推定してきました。
こうして明らかになった地球の断面構造は、次の4層に整理されています。
内核の存在を最初に示したのは、デンマークの地震学者インゲ・レーマンです。1936年、彼女は地震波の反射パターンの異常から、液体の外核の内側にさらに固体の層があると推論しました。直接見ることなく、観測データと数式だけで地球最深部の構造を言い当てた発見でした。
内核の温度は約5500度とされており、太陽表面の温度に近い高温です。通常、鉄は約1500度で溶けますから、この温度ならば溶けていてよさそうです。ところが内核は固体です。
その理由は圧力にあります。内核にかかる圧力は地表の約360万倍とされています。これほどの圧力下では、鉄原子は結晶構造を維持したまま動けなくなります。高温があっても、圧力がそれを上回り、固体の状態が保たれます。
この固体の球体は、周囲を液体の外核に囲まれています。つまり、固体の内核は液体の海に「浮いている」状態にあります。この構造から、内核は地球本体の自転とは独立に、わずかに速くあるいは遅く回転できると考えられています。この現象を差動回転といいます。
内核がわずかに速く回っているという説は、1990年代から研究されてきました。同じ伝播経路を通る複数の地震波を長期間比較すると、内核を通過するときの速度にずれが生じることがあります。そのずれの蓄積を追うことで、内核の回転状態を推定できるというアプローチです。
2023年に中国・北京大学の研究チームが発表した分析は、数十年分の地震波データをもとに次の結論を示しました。
2009年ごろを境に、内核の差動回転が止まり、その後、地表に対してわずかに逆向きに動きはじめた可能性がある。
ここで注意が必要なのは、「内核が地球と逆向きに回転している」という意味ではないことです。内核は依然として地球の自転と同じ向きに、ほぼ同じ速さで回っています。問題にされているのは、そのごくわずかな「差」です。
この研究が提唱するモデルによると、内核の回転速度は地表に対して約70年周期で振動しているとされます。ある時期は地表よりわずかに速く、ある時期はわずかに遅い。「遅い局面」に入ると、地表を基準にすれば相対的に逆向きに見えます。2009年はその切り替わりのタイミングだったとされ、前回は1970年代初頭、次は2040年ごろになるという推算です。
ただし、この説はまだ確定していません。
別の研究チームは、振動周期は70年ではなく約6年だと主張しています。さらに、そもそも内核が回転しているのではなく、「内核の表面形状が変化しているのではないか」という仮説も提出されています。内核が動いているように見える地震波の変化は、実は表面が部分的に溶けたり固まったりして変形している証拠ではないか、というものです。
意見がこれほど分かれる根本的な理由は、データが十分ではないことにあります。内核を直接調べる手段はなく、利用できるのは都合のよい場所で起きた地震の波だけです。その限られたデータを、世界各地の地震計で収集しています。5100km先の構造を、針の穴から覗くような精度で推定しているのが現状です。
この問題が重要なのは、内核の回転が地球の磁場と深く関わっていると考えられているためです。地球磁場は、太陽から放出される有害な放射線をはね返す役割を持っています。この磁場は、液体の外核の動きによって生み出されており(ダイナモ効果)、内核と外核のダイナミクスが複雑に絡み合っています。
内核と外核と磁場がどう相互作用しているのか、その全体像はまだ十分に解明されていません。
整理すると、地球の内核についての現状は次のようになります。
ほぼ確立していること
まだ研究途上の部分
地球の深部科学は、地震波という間接的な手段に大きく依存しています。観測技術と解析手法の精度が上がるにつれて、モデルが修正されてきた歴史もあります。今後の観測データが蓄積されることで、この問いにより確かな答えが出てくると期待されています。
足元5100kmの鉄の球体は、私たちが暮らす地表の磁場環境を間接的に支えています。その挙動を正確に把握することは、地球科学の根幹にかかわる課題として、現在も研究が続いています。
編集部の視点
この記事で注目してほしいのは、「向きが変わった」という表現の意味の細かさです。地球が逆回転するような劇的な話ではなく、5100km先の鉄の球体が地表に対してほんのわずか速いか遅いかという話です。それほど微小な変化を地震波の間接観測から読み解こうとしている——そこに地球深部科学のリアルな難しさと誠実さが宿っていると思います。研究者の見解が割れている事実も、隠さず伝えることが誠実な科学報道だと編集部は考えています。
よくある質問
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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