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太陽観測公開 更新 1

私たちは、太陽を「真横」からしか見ていなかった。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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私たちは長いあいだ、太陽を「真横」からしか見ていなかった

これまでの太陽の画像は、すべて赤道側から撮られていた

教科書やニュース、各国の宇宙機関が公開してきた太陽の画像には、ひとつの共通点があります。それらはいずれも、太陽をほぼ真横から撮ったものでした。

地球も、これまで太陽を観測してきたほとんどの探査機も、太陽の赤道とほぼ同じ平面(黄道面)の上を回っています。そのため人類は長いあいだ、太陽という巨大な球体を、赤道のあたりからしか観測できずにいました。

ポートレート写真にたとえるなら、相手の横顔だけを見て、その人を知ったつもりになっていたようなものです。では、太陽を真上から見下ろし、そのを正面から見たとき、そこには何が広がっているのか。その答えが、史上初めて得られつつあります。

太陽の極を見るのが難しかった理由

太陽系はほぼ一枚の平らな円盤になっている

太陽の極を観測するのが難しいのは、太陽系という場所の成り立ちそのものに理由があります。

太陽系は、約46億年前に巨大なガスとちりの雲が回転しながら収縮して生まれたとされています。回転するものは遠心力で平らに広がっていきます。ピザの生地を回すと円盤状に伸びるのと同じ原理です。こうして惑星たちは、ほぼ一枚の薄い円盤の上に並びました。この円盤がつくる面、つまり地球が太陽を回る軌道の平面を黄道面と呼びます。

地球から打ち上げる探査機は、この平らな円盤の上をスタート地点とします。そして宇宙空間で軌道の傾きを変えるのは、非常に大きなエネルギーを必要とする作業です。

軌道面を傾けるには莫大なエネルギーがいる

ロケットは進行方向に加速するのは比較的得意ですが、軌道面そのものを傾けて太陽の下や上へ回り込もうとすると、莫大な燃料が必要になります。地球の公転スピード(秒速約30km)に逆らって、進路を真横へ蹴り出すような作業だからです。

そのため、太陽探査の歴史において極を直接撮影することは、長く手の届かない目標でした。1990年代には欧州と米国の共同探査機「ユリシーズ」が太陽の極周辺を通過しましたが、これはカメラを持たず、磁場や太陽風を計測する探査機でした。極のすがたを写した画像は、まだ一枚も得られていなかったのです。

太陽は私たちにとって最も身近な恒星でありながら、その上半身と下半身を一度も見せたことのない、巨大で謎めいた隣人だったといえます。

金星の重力を使って太陽の下へ回り込む

重力アシストで燃料を節約する

このエネルギーの壁を越えるために投入されたのが、欧州宇宙機関(ESA)とNASAが共同で送り出した探査機**ソーラーオービター(Solar Orbiter)**です。2020年に打ち上げられたこの探査機は、巧妙な戦略でエネルギーの壁を乗り越えました。

その鍵が、**金星の重力アシスト(スイングバイ)**です。これは、惑星に接近してその重力を利用し、燃料を使わずに探査機の軌道を変える手法です。

探査機は金星に何度も接近し、そのたびに金星の重力を利用して軌道を少しずつ傾けていきます。燃料を燃やす代わりに、惑星の重力という天然のエンジンを借りて、軌道面を黄道からじわじわと持ち上げていくのです。一度で大きくは変えられないため、何年もかけて金星への接近を繰り返す、長い旅になりました。

こうして探査機の視点はゆっくりと太陽の赤道面を離れ、軌道が傾き、やがて太陽を斜め下から見上げる位置へと回り込んでいきました。

2025年、初めて極をはっきり捉えた画像が届いた

2025年、ソーラーオービターは黄道面から十分に傾いた角度に到達し、人類史上初めて太陽の極をはっきり捉えた画像を地球へ送り届けました。

常に真横にあった赤道のラインが下へとずれ、視点が太陽の縁を越えて回り込む。深い宇宙の漆黒を背景に、渦巻くプラズマと、ゴールドやマゼンタに輝く磁力線が描き出す、新しい太陽の構図が立ち現れました。横顔しか知らなかった相手の、初めて見るつむじのような眺めだったといえます。

極で明らかになりつつある磁場の謎

N極とS極が一つの極域に入り混じっていた

極の観測がこれほど重視されてきたのは、そこが太陽の活動の中心だからです。

太陽は巨大な磁石のように、N極とS極を持っています。地球の磁場であれば、北極はN極、南極はS極ときれいに分かれています。ところが、初めて捉えられた太陽の極では、想像を超える光景が広がっていました。N極とS極が、まるで混ざり合うように一つの極域に同居していたのです。

これは、太陽がいま活動の極大期、つまり磁場が最ももつれ、荒れる時期にあることを示していると考えられます。穏やかなときには極にきれいに分かれているはずの磁場が、活動が激しくなると引き裂かれ、再配置され、極で複雑に入り混じる。その瞬間を、私たちは初めて真上から目撃したことになります。

約11年周期で起きる磁場の反転を解く手がかり

太陽には約11年の活動周期があり、その周期の頂点では、N極とS極が完全に入れ替わるという現象が起きるとされています。地球でいえば、北と南の磁極がそっくり逆転するようなものです。

なぜ、どのようにして太陽の磁場は反転するのか。これは太陽物理学における最大級の謎の一つであり、その答えは極にこそ隠されていると考えられてきました。磁場の反転は、極で始まり、極で完結すると見られているからです。

これまで私たちは、この決定的な現場を真横からしか眺められませんでした。地球から極を見ようとするのは、相手の頭のてっぺんを、床に寝転んで見上げようとするようなものです。どうしても歪んで、ほとんど見えませんでした。いま、ソーラーオービターはその現場へ真上から近づきつつあります。

太陽風が噴き出す「出口」を直接観測する

極域はまた、太陽風、すなわち太陽から噴き出す高速の荷電粒子の流れが、宇宙へと吹き出す主要な出口でもあります。とりわけ極にぽっかりと開くコロナホールと呼ばれる領域からは、秒速700kmを超える高速の太陽風が放たれているとされます。

この太陽風が地球に届くと、美しいオーロラを生み出す一方で、人工衛星の故障、GPSの乱れ、大規模な停電といった宇宙天気の災害を引き起こすことがあります。その源流を、これまで誰も正面から見たことがありませんでした。極からの観測は、太陽風がどこで生まれ、どう加速されるのかを解き明かす、貴重な機会になります。

この観測が私たちの暮らしにつながる理由

太陽の極を見ることは、遠い宇宙だけの話ではありません。

私たちの生活は、いまや太陽の状態に深く依存しています。スマートフォンの位置情報、航空機の通信、送電網、宇宙ステーションにいる宇宙飛行士の安全。そのいずれもが、太陽が放つ磁場と粒子の影響を受けます。巨大な太陽フレア(太陽表面の爆発現象)がひとたび地球を直撃すれば、現代の電子インフラが広い範囲で麻痺する可能性も指摘されています。

太陽の磁場がいつ、どのように荒れるのかを予報できるようになること。それは、地震や台風の予報と同じように、これからの社会にとって重要な意味を持ちます。太陽の極を観測することは、その宇宙天気予報の精度を高めるための一歩になると期待されています。私たちはいま、太陽を理解する新しい段階の入り口に立っています。

結局、何がわかって、何がまだ謎なのか

何千年ものあいだ、人類は太陽を見上げ、崇め、研究してきました。それでもなお、私たちはその星の真上を一度も見たことがありませんでした。最も身近で、最も見つめてきたはずの天体に、これほど大きな「初めて」が残されていたのです。

今回はっきりしたのは、初めて捉えた太陽の極で、N極とS極が一つの極域に入り混じっていたこと、そしてそれが活動の極大期と結びついていると考えられることです。一方で、太陽の磁場がなぜ約11年周期で反転するのか、太陽風が極のどこでどう加速されるのかは、まだ解かれていない謎として残されています。ソーラーオービターはいま、その現場へ真上から近づきつつあり、答えに迫ろうとしています。

深い宇宙の黒のなか、ゴールドとマゼンタの磁力線が極で渦を巻く。その一枚の画像は、当たり前だと思っていた場所にも、まだ見たことのない景色が隠されていることを静かに示しています。私たちの頭上で輝く太陽には、人類が初めて覗き込んだばかりの、もう一つの顔があるのです。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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