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太陽系公開 1

あなたは、月の「裏」を一度も見ていない。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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あなたが見ている月は、いつも同じ顔をしている

夜空に浮かぶ月を、これまで何百回、何千回と見上げてきたはずです。けれど、その月の「裏側」を、あなたは一度も肉眼で見たことがありません。これは比喩でも言葉のあやでもなく、物理的な事実です。地球から月を見る限り、私たちには永遠に見えない領域が存在します。

人類がその裏側の姿を初めて目にしたのは、ようやく1959年のことでした。望遠鏡が発明されてから約350年、ガリレオが月のクレーターをスケッチしてからでさえ3世紀半が経っていました。それほど長いあいだ、月の半分は文字どおり「未知の領域」だったのです。

なぜ月はいつも同じ面を地球に向けているのか

まず確認しておきたいのは、月が「回転していない」わけではない、という点です。むしろ月はきちんと自転しています。地球のまわりを一周する公転に約27.3日かかりますが、月が自分自身を一回転させる自転にも、ぴったり同じ約27.3日かかります。

公転の周期と自転の周期が完全に一致している。この奇妙な一致こそが、月がいつも同じ面を地球に向け続ける理由です。

少し直感に反するかもしれません。同じ面を向けているのだから自転していないように思えますが、実際は逆です。たとえば、あなたが部屋の中央にいる友人の顔を見ながら、その友人のまわりをぐるりと一周歩いてみてください。友人にずっと正面を向けたまま一周し終えたとき、あなた自身も部屋に対して一回転しています。月はこれと同じことを、地球のまわりで律儀に繰り返しているのです。

この「公転と自転が同期した状態」を、天文学では潮汐ロック(または同期自転)と呼びます。

潮汐ロックは偶然ではなく、必然の結果だった

潮汐ロックは、たまたまそうなったのではありません。何十億年もの時間をかけて、地球の重力が月を「ロック」した結果です。

地球の重力は、月の地球側と反対側で強さがわずかに異なります。この差が月をほんの少しだけ引き伸ばし、ラグビーボールのように楕円形に変形させます。これを潮汐力と呼びます。地球の海が月の引力で満ち引きするのと、原理は同じです。

月が誕生した直後は、もっと速く自転していたと考えられています。しかし自転するたびに、この潮汐による「ふくらみ」が地球の方向からずれようとし、地球の重力がそれを引き戻そうとする。この摩擦のようなブレーキが気の遠くなる時間をかけて月の自転にはたらき続け、やがて自転と公転がぴたりと釣り合う今の状態に落ち着きました。

つまり潮汐ロックは、太陽系のあちこちで起きているありふれた現象です。木星や土星の主要な衛星の多くも、同じ理由で惑星に同じ面を向け続けています。

「裏側」は「暗い側」ではない、というよくある誤解

ここで一つ、はっきりさせておきたい誤解があります。月の裏側を「ダークサイド(暗黒面)」と呼ぶ表現を耳にしたことがあるかもしれませんが、これは正確ではありません。

裏側が暗いわけではないのです。月の昼と夜は、地球から見えるか見えないかとは無関係に、太陽の光が当たるかどうかで決まります。新月のとき、地球に向いた表側は真っ暗な夜ですが、そのとき裏側は燦々と太陽に照らされた昼です。裏側にも、表側とまったく同じように昼と夜が約2週間ごとに訪れています。

正しくは「裏側」あるいは「遠い側(ファーサイド)」であって、「暗い側」ではありません。見えないことと、光が当たらないことは、別の話なのです。

実は、月の表面の59%を私たちは見ている

さらに踏み込むと、「見えるのはちょうど半分」という思い込みも、厳密には正しくありません。

月の公転軌道はわずかに楕円で、月の自転軸もわずかに傾いています。このため月は、地球から見るとごくわずかに首を振るように揺れて見えます。この揺れを秤動(ひょうどう)と呼びます。秤動のおかげで、私たちは時期によって月の縁の向こう側を少しだけ覗き込むことができます。

その効果をすべて足し合わせると、地球からは月面の約59%を見ることができます。ちょうど半分の50%ではなく、少し多いのです。

裏を返せば、残りの約41%は地球からは絶対に見えません。あなたが一生かけてどれだけ月を見上げても、その41%だけは決して視界に入らない。これが冒頭で述べた「一度も見ていない」の正体です。

1959年、初めて裏側の姿が明らかになった

人類が初めてこの永遠の死角を覗いたのは、1959年でした。この年、月の裏側の姿が初めて画像として捉えられ、長く想像するしかなかった領域に、ようやく実像が与えられたのです。

そして送られてきた裏側の姿は、研究者を驚かせました。地球から見える表側には、「海」と呼ばれる黒っぽく平らな広がりがいくつもあります。これは月の歴史の初期に溶岩が噴き出して固まった玄武岩の平原で、月の模様、いわゆる「うさぎの餅つき」を形づくっているものです。

ところが裏側には、この「海」がほとんど存在しませんでした。代わりに、無数のクレーターがびっしりと刻まれた、ごつごつとした地形が広がっていたのです。表側と裏側は、まるで別の天体のように顔つきが違っていました。

表と裏で顔が違う理由は、まだ完全には解けていない

なぜ表側と裏側で、これほど見た目が異なるのか。2026年時点でも、この問いに完全な決着はついていません。

有力な説の一つは、月の地殻の厚さの違いです。観測によれば、裏側の地殻は表側より厚いことがわかっています。地殻が厚いと、内部のマグマが表面まで噴き出しにくくなり、結果として「海」をつくる溶岩の平原が広がりにくかった、という考え方です。

ではなぜ裏側の地殻だけが厚くなったのか。ここには諸説あり、地球の熱の影響で表側だけ冷え方が違ったとする説や、かつて地球がもう一つの小さな衛星を持っていて、それが月の裏側に衝突して合体したとする大胆な仮説まで提案されています。いずれも研究途上であり、定説と呼べる段階には至っていません。

確かなのは、月の表と裏が非対称だという事実そのものであり、その原因の特定は、現在も惑星科学の課題として残されているということです。

結局、何がわかっていて、何が謎なのか

月がいつも同じ面を地球に向けるのは、自転と公転の周期が一致する潮汐ロックという、物理的に説明のつく現象です。そして地球から見える月面は秤動を含めても約59%にとどまり、残りの約41%は原理的に肉眼では見えません。だからこそ、その素顔が判明したのは探査機による撮影が実現した1959年まで待たねばなりませんでした。

一方で、表側と裏側がなぜこれほど違う顔を持つのかという問いは、地殻の厚さの違いまでは突き止められているものの、その根本原因は今なお決着していません。いつも見上げているはずの月は、その半分近くを私たちにまだ見せておらず、見せている側についてさえ、説明しきれない謎を抱えたままなのです。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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