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地球が3つ入った嵐が、いま縮んでいる。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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地球が3つ入っていた嵐は、なぜ地球1つ分まで縮んだのか

木星の表面に、ひときわ目立つ深紅の渦があります。大赤斑(Great Red Spot)と呼ばれる巨大な嵐です。かつてこの渦は、地球が横に3つ並んで収まるほどの大きさを持っていました。ところが現在、そこに入る地球はおよそ1つ分にまで減っています。数百年にわたって木星に居座り続けてきた史上最大級の嵐が、観測史上もっとも小さい状態へと向かっている。この記事では、何がわかっていて、何がまだ謎のままなのかを整理していきます。

大赤斑とは何か——木星の南半球に居座る巨大な高気圧

大赤斑は、木星の南半球、赤道よりやや南に位置する巨大な渦です。性質としては地球の台風と逆で、中心の気圧が周囲より高い「高気圧性の渦(アンチサイクロン)」にあたります。地球の台風が数日から1週間ほどで消えるのに対し、大赤斑は少なくとも150年以上、おそらくはそれ以上にわたって存在し続けています。

渦は反時計回りに回転し、ひとまわりするのにおよそ6日かかります。縁を吹く風の速度は時速400キロメートルを超え、観測によっては時速600キロメートル台に達するとされます。地球上のどんな暴風も及ばない規模の風が、何世紀ものあいだ同じ場所で回り続けてきたことになります。

色は名前のとおり赤みを帯びていますが、その赤の正体は2026年時点でも確定していません。木星深部から運ばれてきた硫黄やリンを含む化合物、あるいはアンモニアなどが太陽からの紫外線を浴びて化学変化を起こし、赤い色素になったとする説が有力ですが、決め手となる証拠はまだ得られていません。年によって赤の濃さが変わることも知られており、内部の化学過程は研究途上です。

いつから見えているのか——カッシーニの「永続的な斑点」をめぐる議論

大赤斑がいつから存在するのかという問いには、はっきりした答えと、曖昧な部分の両方があります。

確実なのは、ドイツの天文学者ザムエル・ハインリッヒ・シュワーベが1831年に南半球の目立つ斑点をスケッチして以降、ほぼ途切れなく観測され続けてきたという点です。この約190年間の記録は信頼できます。

一方で、それより古い記録については議論があります。17世紀、ジョヴァンニ・カッシーニらが1665年ごろから木星に「永続的な斑点(Permanent Spot)」を観測したと報告しています。これが現在の大赤斑と同じものなのかどうかは、長く論じられてきました。近年では、カッシーニが見た斑点はいったん消滅し、現在の大赤斑は18世紀以降に新たに形成された別の渦である、とする見方が研究者のあいだで有力になっています。つまり「350年以上続く嵐」という表現は、慎重に扱う必要があります。確実に追跡できているのは19世紀以降だと考えておくのが正確です。

どれだけ縮んだのか——3つから1つへ、数字で見る変化

縮小の様子は、長年の観測記録によって具体的な数字で追うことができます。

19世紀後半、大赤斑の東西方向の幅はおよそ4万キロメートルあったと見積もられています。地球の直径が約1万2700キロメートルですから、横に3つ並べてもまだ余裕がある計算です。

その後、1979年にNASAの探査機ボイジャー1号と2号が接近して撮影したとき、幅はおよそ2万3000キロメートルにまで縮んでいました。さらに1990年代以降、ハッブル宇宙望遠鏡による継続的な監視で縮小が確かめられ、近年では幅がおよそ1万6000キロメートル前後にまで小さくなっています。これは地球の直径とほぼ同じで、入る地球は1つ分ほど、という状態です。

形にも変化が現れています。かつては東西に長く引き伸ばされた楕円形でしたが、縮小が進むにつれて、東西方向が縮んで全体が円形に近づいてきました。動画でも示されているとおり、横長の楕円から丸い渦へと姿を変えながら小さくなっているのです。

ただし、縮小は単純な右肩下がりではありません。ハッブルによる2023年から2024年にかけての観測では、大赤斑の大きさがおよそ90日ほどの周期でわずかに伸び縮みする「振動」が捉えられました。長期的に縮みながらも、短期的には揺らいでいるというのが現在の姿です。

なぜ縮んでいるのか——有力な仮説と、未解明の核心

ここが、この嵐の最大の謎です。なぜ縮小しているのか、その理由は2026年時点でも完全には解明されていません。いくつかの仮説が提案されている段階です。

一つは、より小さな渦との相互作用が関係しているという考えです。木星の表面では大赤斑のほかにも多数の小さな嵐が生まれては消えており、それらが大赤斑に合体したり、逆にエネルギーを奪ったりすることで、大きさが変動しているという見方があります。2024年に発表されたコンピューターによる流体シミュレーションの研究では、小さな嵐が大赤斑に取り込まれる過程が、その明るさや形に影響を与えうることが示されました。ただし、これが長期的な縮小そのものを説明できるかどうかは、まだ確定していません。

もう一つ重要なのが、NASAの木星探査機ジュノー(Juno)がもたらした、渦の「深さ」に関する知見です。ジュノーは2016年に木星を周回する軌道へ入り、マイクロ波放射計などを使って大赤斑の内部構造を探りました。その結果、この渦は表面の模様にとどまらず、雲の下およそ300キロメートルから500キロメートルの深さにまで根を張っていることがわかりました。横幅が縮む一方で、渦が縦方向に背を伸ばしている可能性も指摘されています。横に広がっていたエネルギーが縦に集約されているのか、それとも全体として弱まっているのか。表面の幅という一つの数字だけでは、渦の盛衰を語りきれないことが見えてきました。

将来的に大赤斑が消えてしまうのかどうかも、断定はできません。このまま縮小が続けば数十年のうちに見えなくなるという予測がある一方で、ある大きさで安定する、あるいは再び成長に転じる可能性も否定されていません。

結局、何がすごくて、何がまだ謎なのか

確実に言えるのは、人類が望遠鏡と探査機を通じて、ひとつの嵐の盛衰を150年以上にわたって連続して記録してきたという事実です。地球の3倍幅から1倍幅へ、楕円から円へ。その縮小は、推測ではなく具体的な観測データの積み重ねによって裏づけられています。

一方で、最も知りたい問いは未解明のまま残されています。なぜ縮むのか。赤い色の正体は何か。この先消えるのか、残るのか。これらにはまだ確かな答えがありません。地球がまるごと収まる規模の嵐が、人間の一生よりはるかに長い時間スケールで姿を変えていく。その変化に立ち会えること自体が、太陽系の時間の流れを実感させてくれます。

編集部の視点

この記事で特に注目してほしいのは、「縮小」という事実そのものより、それをどう知ったか、という点です。4万キロから1万6000キロへの変化は、推測や計算ではなく150年以上にわたる観測記録の積み重ねによって初めて語れる数字です。同時に、なぜ縮むのかという核心的な問いには、探査機ジュノーが渦の深さを測った今も確かな答えが出ていません。「わかったこと」と「まだ謎であること」が明確に区別されている点に、現代の惑星科学の誠実さを感じてください。

よくある質問

Q. 大赤斑は「台風」と同じものですか?
似ていますが、構造が逆です。地球の台風は中心気圧が低い「低気圧性の渦」ですが、大赤斑は中心が周囲より気圧の高い「高気圧性の渦(アンチサイクロン)」です。また台風は数日〜1週間で消えますが、大赤斑は少なくとも150年以上同じ場所で回り続けています。
Q. 「350年以上続く嵐」という説明をよく聞きますが、それは正確なのですか?
慎重に扱うべき表現です。17世紀にカッシーニが観測した「永続的な斑点」と現在の大赤斑が同一かどうかは長く議論されており、近年の研究ではいったん消滅して別の渦が形成されたとする見方が有力です。確実に連続して追跡できているのは19世紀以降の約190年間です。
Q. 縮小しているなら、大赤斑はいずれ消えてしまうのですか?
断定はできません。このまま縮小が続けば数十年で見えなくなるという予測がある一方、ある大きさで安定する、あるいは再び成長に転じる可能性も否定されていません。また探査機ジュノーの観測では渦が縦方向に深く根を張っていることもわかっており、表面の幅だけで消滅を語ることはできない状況です。
Q. なぜ「赤い」のかはまだわかっていないのですか?
はい、2026年時点でも確定していません。木星深部から運ばれた硫黄やリンを含む化合物、またはアンモニアなどが紫外線によって化学変化し赤い色素になったとする説が有力ですが、決め手となる証拠は得られていません。年によって赤の濃さが変わることも知られており、内部の化学過程は研究途上です。
Q. 縮小はずっと一定のペースで進んでいるのですか?
そうではありません。長期的には縮小傾向が続いていますが、ハッブル宇宙望遠鏡による2023〜2024年の観測では、約90日周期でわずかに伸び縮みする「振動」が捉えられています。大きなスケールで縮みながら、短期的には揺らぎを繰り返しているというのが現在の姿です。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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