
降格された星が、9年越しに微笑んだ。
冥王星のハート:降格された星が9年越しに見せた素顔 2015年7月、人類は初めて冥王星の「顔」をはっきりと見ました。そ…

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宇宙は無音の世界です。空気のない真空では音は伝わらない。これは正しい物理の事実です。しかし、電磁波は真空でも伝わります。そして電磁波の振動を人間の可聴域(20Hz〜2万Hz)に変換すると、宇宙空間には確かに「聞こえる何か」が存在することがわかります。NASAをはじめとする研究機関が進めてきたソニフィケーション(電磁波データの可聴化)の成果は、静かとされていた太陽系に、想像以上に複雑な電磁環境があることを示しています。
私たちが聞く「音」は、空気や水といった媒質を伝わる振動です。真空の宇宙空間には伝わらないため、20世紀半ばまで宇宙は「完全な無音」と考えられていました。
転機をもたらしたのは1958年、人類初の科学衛星エクスプローラー1号による観測です。地球磁場に捕らえられた高エネルギー粒子の層、ヴァン・アレン帯の発見がそのきっかけでした。この領域では、荷電粒子が電磁波(プラズマ波)を生み出しており、その周波数が偶然にも人間の可聴域と重なっていたのです。
研究者たちがアンテナで捉えた電磁波をスピーカーへ送ると、鳥のさえずりや口笛、すすり泣きに似た音が再生されました。これらは「コーラス波」「ホイッスラー波」と名付けられました。宇宙は沈黙していなかったわけではなく、私たちがその周波数を観測していなかっただけです。
その後、惑星探査機ボイジャー、土星探査機カッシーニ、木星探査機ジュノーが各天体の電磁環境データを持ち帰り、可聴化の研究は積み重なっていきました。
太陽の表面では、プラズマ(電離した高温ガス)が巨大な対流を繰り返し、内部を音波が駆け巡っています。この内部音波を分析する学問を**日震学(helioseismology)**といいます。地震波で地球内部を探るのと同じ手法です。
太陽が発する振動の周期はおよそ5分で、周波数に換算すると約0.003Hz。人間には低すぎて直接聞き取れないため、研究者はこの振動を約4万2千倍に加速して可聴化しました。その結果、低く持続するうなりのような音が得られます。
太陽フレア(表面の爆発現象)が一度起これば、そのエネルギーは水素爆弾数十億個分に相当するとされています。地球の生命を支える恒星が、その内部で絶えず複雑な振動を繰り返しているという事実は、日震学によってはじめて具体的な形で捉えられたものです。
太陽系最大の惑星・木星の磁場は、地球磁場の約2万倍とされています。この強力な磁場が周囲の荷電粒子を加速し、激しいプラズマ波を生み出しています。
2016年に木星周回軌道へ入った探査機ジュノーは、木星の磁気圏に突入した際のデータを記録しました。磁気圏の境界——バウショック(太陽風が惑星磁場にぶつかって減速する衝撃波面)を越えた瞬間のデータを可聴化すると、ノイズが激しく揺れ動く、不規則で鋭い音として聴取されます。研究者の間ではこれを「電子の絶叫」と表現することもあります。
また、木星には地球が2〜3個入るとされる超巨大嵐・大赤斑が存在し、300年以上にわたって継続していることが観測で確認されています。風速は秒速100mを超えるとされ、その上空を吹き荒れる大気の重力波も観測対象となっています。
最も身近に観測される電磁波音の一つが、地球のコーラス波です。地球磁場の中で電子が螺旋を描きながら生み出すこの電磁波を、ヴァン・アレン探査機が捉えて可聴化した音は、無数の鳥が一斉にさえずるような、不規則に連なる高音として再生されます。
コーラス波は、単なる自然現象の記録にとどまりません。この波が電子を光速に近い速度まで加速することで生まれる高エネルギー粒子は「殺し屋電子(killer electrons)」と呼ばれ、人工衛星の電子機器を損傷させ、宇宙飛行士への被曝リスクにもなることが知られています。
故郷の地球が絶えず放出しているこの電磁波が、宇宙空間では潜在的な脅威として作用している。そうした二面性を、コーラス波の研究は示しています。
これらの電磁波音は、科学的には電磁波データを機械的に変換したものです。しかし、研究が進むにつれ、いくつかの未解明の問いが浮かび上がっています。
木星のコーラス波がなぜ地球のものと驚くほど似た構造を持つのか。土星探査機カッシーニが2017年の「グランドフィナーレ」(惑星本体への突入ミッション)直前に記録した、リングと大気の間の領域が理論の予測よりも静かだった理由は何か。いずれも、完全な答えはまだ得られていません。
2023年には、世界中の電波望遠鏡を結んだ観測網が、宇宙全体に広がる重力波の背景——超巨大ブラックホール同士の合体が時空に刻む振動——の兆候を捉えたという報告もあります。これを可聴化する試みも進んでいます。
不穏な話が続きましたが、これらの研究は実際の社会基盤を守ることに結びついています。
太陽フレアが放つ高エネルギー粒子は、GPS衛星、通信衛星、さらには地上の送電網に影響を及ぼす可能性があります。地球のコーラス波や殺し屋電子の研究は、今や宇宙天気予報として実用化が進んでいます。各国の宇宙機関が太陽の振動データを常時モニタリングし、異常の予測と被害の軽減を図っています。
スマートフォンで地図を開けること、航空機が正確に飛行できること——その背後で、研究者たちがこれらの電磁波データを解析し続けています。
真空の宇宙空間に音は伝わりません。ただし、電磁波は伝わります。太陽の内部振動、木星磁気圏のプラズマ波、地球のコーラス波。これらは今この瞬間も発生しており、探査機や地上設備によって観測データが蓄積されています。
そのデータを人間が聞こえる形に変換したとき、宇宙が思っていた以上に動的な電磁環境であることが実感されます。解明済みの現象もあれば、まだ説明がつかない観測結果もある。ソニフィケーション研究は、太陽系の理解を深めるための一つの窓口として、引き続き活発に行われています。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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