
人類最大の探査機が、いまエウロパの「海」へ向かっている。
エウロパ・クリッパー:木星の衛星エウロパに向かう探査機の現状と目的 この記事を読んでいる今も、探査機は宇宙を進んでいる…

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深夜の管制室のモニターに流れ込んできたのは、意味をなさない0と1の羅列でした。地球から237億キロメートル。光の速度でさえ片道22時間以上かかる距離の彼方から、46年間データを送り続けてきた探査機が、突然「解読不能の信号」を発し始めた。2023年11月から2024年4月にかけて、NASAが実際に経験した障害と復旧の記録です。
ボイジャー1号が打ち上げられたのは、1977年9月5日のことです。当時、176年に一度しか訪れない**惑星直列(グランド・ツアー)の機会が迫っていました。木星・土星・天王星・海王星が、探査機が一筆書きで巡れるような配置に並ぶという稀な条件です。エンジニアたちはこの機会を活かし、惑星の重力を利用して加速するスイングバイ(重力アシスト)**という手法を採用しました。
ボイジャー1号は木星と土星を順に訪れ、それまで誰も目にしたことのない映像を地球へ送り届けました。木星の大赤斑、土星のリング、衛星イオで活動する火山などがその代表例です。
1990年、太陽から約60億キロメートル離れた地点でカメラを地球に向けた際に撮影された写真には、太陽光の中にわずか0.12ピクセルの青白い点として地球が写っていました。天文学者のカール・セーガンはこれを「ペイル・ブルー・ドット(淡く青い点)」と名付けました。
機体にはゴールデンレコードと呼ばれる金色のレコード盤が搭載されています。55の言語による挨拶、波の音、バッハの音楽、人間の姿などが収録されており、地球外の知的生命体へのメッセージとして設計されたものです。
2012年8月、ボイジャー1号は太陽圏(ヘリオスフィア)、すなわち太陽風が届く範囲を脱出し、**恒星間空間(インターステラー・スペース)**に到達しました。星と星の間の空間に到達した、人類史上初めての人工物とされています。
2023年11月14日、ボイジャー1号から届くデータが突如として意味をなさなくなりました。科学観測データも機体の健康状態を示すデータも、すべてが「0と1が交互に繰り返されるだけのパターン」へと変わってしまったのです。
障害の診断には、距離が大きな制約となりました。地球から送ったコマンドが探査機に届くまで約22.5時間、その応答が返ってくるまでさらに約22.5時間。一往復の通信に丸2日近くを要する環境での作業です。さらに相手は1970年代の技術で製造されたコンピュータで、搭載メモリは約70キロバイトという制約があります。
数ヶ月にわたる調査の結果、原因が特定されました。機体を制御する3つのコンピュータのひとつ、**FDS(飛行データサブシステム)**内の、一つのメモリチップの故障でした。宇宙空間での放射線環境に半世紀近くさらされ続けたことが影響したとみられています。このチップには、データを地球向けに整形するソフトウェアの一部が格納されており、そのコードが失われたことで、送信データ全体が解読不能になっていたのです。
物理的なチップの交換は不可能です。エンジニアたちが取った方針は、壊れたチップに入っていたコードを、機体内の別の生きているメモリ領域へ移し替えるというものでした。
ただし、移し替えたいコードの容量は、一つの空き領域には収まりきらない大きさでした。そこでチームはコードを細かく分割し、機体メモリ内の複数の空きスペースへ分散して格納するというアプローチを設計しました。コードの書き換えを誤れば、機体が完全に応答しなくなる可能性もある、慎重さが求められる作業です。
2024年4月18日、修正コードが送信されました。信号が届くまで約22.5時間、応答が返るまでさらに約22.5時間。合わせて44時間以上の待機の後、4月20日、機体の健康状態を示すエンジニアリングデータが正常に届きました。その後、科学観測データの受信も順次再開されました。
ボイジャー1号に搭載された**放射性同位体熱電気転換器(RTG)**の出力は、毎年約4ワットずつ低下しています。NASAは消費電力を抑えるため、観測機器を順次停止させてきており、2030年代半ばにはすべての機器が沈黙するとみられています。
電力が尽きてもボイジャー1号は慣性で飛行を続け、秒速約17キロメートルで宇宙空間を進みます。約4万年後には別の恒星の近傍を通過する計算です。機体にはゴールデンレコードが搭載されており、探査機本体の機能が失われた後も、宇宙を漂い続けることになります。
2023年から2024年にかけての通信障害は、半世紀にわたって運用を続けてきたハードウェアの経年劣化が、実際の障害として現れた事例です。一方で、距離・通信遅延・旧世代のアーキテクチャという制約のもとでの復旧も実現しました。
現時点でボイジャー1号の運用は継続されていますが、電力の低下は避けられず、運用終了の時期は着実に近づいています。残された期間にどのような観測データが得られるか、また得られたデータがどのように分析されるかが、今後の注目点となっています。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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