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火星を地球化する「核爆撃テラフォーミング」。

編集・制作:未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

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火星を地球化する「核爆撃テラフォーミング」——赤い惑星の大気を取り戻せるか

火星は、地球からおよそ5,500万〜4億キロメートルの距離にある、凍てついた惑星です。平均気温はマイナス63度、大気圧は地球のわずか0.6%。この環境下では、宇宙服なしで地表に立つことはできません。

そんな火星を人間が住める惑星へと改造しようという構想が、「テラフォーミング」です。理論としては長年語られてきましたが、2015年ごろ、起業家イーロン・マスクが「火星の両極に繰り返し核爆弾を爆発させる」というアイデアを公言し、改めて広く注目を集めました。

荒唐無稽に聞こえるこの発想には、一応の科学的背景があります。同時に、近年の探査データはその限界も明らかにしています。


テラフォーミングとは何か、誰が提唱してきたか

「テラフォーミング(terraforming)」という言葉は、ラテン語の terra(大地)と form(形作る)を組み合わせた造語です。惑星の環境を人間が生存できるよう改造する、という概念を指します。

この言葉が最初に使われたのは科学論文ではなく、1942年に作家ジャック・ウィリアムスンが短編小説の中で用いたのが起源とされています。

科学的な議論として浮上させたのは、天文学者カール・セーガンです。1961年には金星への藻類散布による大気改造を提案し、1973年には火星の極地の氷を融かして大気を厚くする可能性を論じました。当時は火星探査機のデータも限られており、理論的な試みの域を出ませんでしたが、惑星改造を科学の問いとして扱う流れを作りました。

その後、1991年には科学者ロバート・ズブリンらが、火星の軌道上に巨大な鏡を配置して極冠を暖める案を発表。ズブリンは後に火星協会を設立し、移住計画を工学的な問題として扱う運動を本格化させました。


核爆弾が候補に挙がった理由——極冠に眠る二酸化炭素

マスク構想の核心は、火星の南北両極を覆う極冠にあります。

火星の極冠は、水の氷だけでなく、大量の**ドライアイス(凍結した二酸化炭素、CO₂)**を含んでいます。特に南極冠の下には、火星の薄い大気を倍増させるほどの量のCO₂が固体として存在していると考えられてきました。

二酸化炭素は温室効果ガスです。これを一気に気化させて大気中へ放出できれば、次のような連鎖が期待できます。

  1. 大気の密度が上がり、気圧が高まる
  2. 温室効果によって気温が上昇する
  3. 気温上昇でさらに氷が融け、追加のCO₂が放出される
  4. それがまた温室効果を強める

この正のフィードバックが続けば、外部からのエネルギー供給なしに火星が自ら温まり続けるシナリオが描けます。

問題は、極冠に莫大な熱エネルギーをどう供給するかです。軌道鏡で太陽光を集中させる方法では時間がかかりすぎる。そこでマスクが持ち出したのが、核兵器の圧倒的なエネルギー密度でした。1メガトン級の核爆発は、都市一つに相当する熱を一瞬で放出します。両極の上空で繰り返し核爆発を起こすことで、極冠のドライアイスを強制的に気化させようという発想です。マスクはこの構想をもとに「NUKE MARS」と記したTシャツを販売したことでも知られています。


2018年の研究が示した制約——CO₂の総量が足りない

この構想に対し、2018年にNASAの資金を受けた研究チームが重要な制約を発表しました。コロラド大学のブルース・ジャコスキーと北アリゾナ大学のクリストファー・エドワーズによる研究です。

チームは火星探査機の最新データを分析し、火星のアクセス可能なCO₂をすべて気化させても、大気圧は地球の約7%程度にしかならないと試算しました。極冠のドライアイス、土壌に吸着した気体、岩石中の鉱物——考えうる供給源をかき集めても、人間が宇宙服なしで生活できる気圧には遠く届かないという結論です。


大気が保てない根本的な問題——地磁気の喪失

CO₂の量以外にも、根本的な障壁があります。

かつての火星は、川が流れ湖をたたえた温暖な環境だったと考えられています。しかし火星は内部の活動が冷えて止まり、地球の地磁気に相当するバリアを失いました

地球では、地磁気が太陽から吹きつける高速の粒子の流れ(太陽風)を受け止め、大気を守っています。この保護を失った火星の大気は、何十億年もかけて太陽風に剥ぎ取られてきました。NASAの探査機「MAVEN」の観測では、火星が現在も大気を失い続けていることが確認されています。

つまり、核爆撃で一時的に大気密度を高めたとしても、磁場がなければ再び宇宙へ散逸してしまいます。加えて、核爆発によって生じる塵が太陽光を遮り逆に寒冷化をもたらす可能性(いわゆる核の冬)や、放射性降下物による汚染も、この手法の深刻な懸念事項として挙げられています。


現在の評価と、続く代替案の研究

現在の科学的なコンセンサスでは、核爆撃テラフォーミングは現実的ではないとされています。主な理由は、利用可能なCO₂の総量の不足と、地磁気のない火星では大気を長期保持できないという二点です。

ただし、この議論が残した意義はあります。惑星規模の環境設計という問いが、SF的な空想から工学的・科学的な検証の対象になったことです。現在も、軌道上に人工衛星を配置して擬似的な磁場を生む案、温室効果ガスを人工的に製造・散布する案、大型の軌道鏡で太陽光を集中させる案など、核に依存しない代替アイデアが各地の研究機関で議論されています。

また、惑星を意図的に温めることの難しさを定量的に検証する過程は、地球の大気が現在の均衡をどのような条件で維持しているかを理解する上でも、参照点を提供しています。

核爆撃テラフォーミングは、現時点では実現不可能な構想です。しかしそれが問いかけた課題——大気の供給源、磁場の問題、エネルギー収支——は、火星移住を将来的に真剣に検討するなら、いずれにせよ解決しなければならない問題です。その意味で、この一見過激な発想は、火星改造という長い議論の中の一つの節点として記録されるでしょう。

参考・情報源

本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。

※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。

未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部

NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。

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