
全部混ぜると、宇宙は黒くなかった。
宇宙の平均色は黒ではない。全銀河の光を混ぜると現れる「コズミックラテ」 夜空を見上げると、星々のあいだは漆黒に沈んでい…

YouTube Shorts
記事本文
夜空の向こうに広がる宇宙全体の姿が、私たちの脳の神経回路とほとんど見分けがつかないほど似ている。そう聞くと詩的な比喩のように思えますが、これは2020年に物理学者と神経科学者が数値で比較した、れっきとした研究の話です。スケールにして10の27乗倍もかけ離れた二つの世界が、なぜか同じ構造をしている。この事実を、科学はどこまで説明できるのでしょうか。
20世紀の初め、天文学者たちは銀河を「宇宙にランダムに散らばった島々」だと考えていました。ところが1970年代から80年代にかけて、望遠鏡の性能が上がり、何千もの銀河の距離を測って立体的な地図を描けるようになると、まったく異なる宇宙の姿が浮かび上がってきました。
銀河は決してばらばらには散らばっていませんでした。細い糸のように連なり、互いに枝分かれし、巨大な網の目を編んでいたのです。
この構造は「宇宙の大規模構造(コズミック・ウェブ)」と呼ばれています。その特徴は大きく三つです。
銀河の糸がボイドの泡を取り囲む——この構造が、後に脳の神経回路と比較されることになります。
2020年、イタリアの天体物理学者フランコ・ヴァッツァと神経外科医アルベルト・フェレッティは、宇宙の大規模構造のシミュレーション画像と、人間の小脳・大脳皮質の顕微鏡画像を、同じ数理的手法で分析しました。
結果として報告されたのは、密度のゆらぎの分布(どのくらいの間隔で「濃い部分」と「薄い部分」が繰り返されるか)を示すグラフが、宇宙のフィラメントと脳の神経網とで驚くほど一致していたという点です。
数値の比較も興味深いものがありました。
個数が桁として近いだけでなく、一つの要素が他とどれだけ繋がっているかという「平均結合数」も、脳のニューロンと宇宙のノードで同程度とされています。
さらに、全体に占める「構造を形成する物質」の割合にも類似点が指摘されています。脳では構造の質量比が約25%。宇宙では、銀河や星を生む通常の物質はわずか約5%で、残りはダークマター(光を発しない未知の物質)とダークエネルギーが占めます。「実際に構造を編んでいるのはごく一部で、大半は見えない背景が支えている」という基本構図が共通しているという指摘です。
宇宙のフィラメントと脳の神経網は、まったく異なる力によって形成されています。宇宙では重力が物質を引き寄せ、脳では電気的・化学的な信号が細胞間の接続を形成します。
それでも似た構造が生まれる理由として、研究者たちが挙げるのは自己組織化という考え方です。異なる力が働いていても、「限られた資源で、いかに広く効率よく繋がるか」という同じ最適化の問いに直面したとき、自然は似た形の答えにたどり着く。これは「収斂」と呼ばれる、自然界に繰り返し見られる現象です。
木の枝の分かれ方、川の支流、肺の気管支——スケールや物質が異なっても、網目状の構造は自然界に繰り返し現れます。宇宙と脳の相似も、その一例として位置づけられています。
この相似の発見は、宇宙の大規模構造そのものへの研究を加速させています。
2023年、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ユークリッド」が打ち上げられました。100億光年彼方までの数十億個の銀河を観測し、ダークマターとダークエネルギーが作り上げた網目の立体地図を、これまでにない精度で描き出すことを目指しています。
地上でも、クエーサー(極めて明るく輝く活動銀河核)の光を照明として使い、本来は暗くて見えないフィラメントのガスを浮かび上がらせる手法が進んでいます。銀河間に伸びるフィラメントの「実像」が、観測データとして得られつつある段階です。
脳と宇宙の相似を報告した研究者たち自身、この結果を「機能的な同一性の証明ではなく、自然界に潜む普遍的な構造法則の手がかり」として慎重に位置づけています。
「宇宙が情報を処理しているのか」「宇宙に意識はあるのか」という問いを真剣に検討する研究分野もあります。観測可能な宇宙がこれまでに処理してきた情報量を試算すると約10の120乗ビットにのぼる可能性があるとする推計もあります。ただし、構造が似ているという観察から「宇宙が考えている」と結論づけるには、現時点では根拠が不十分です。
わかっていること:宇宙の大規模構造と脳の神経回路は、数理的な指標において顕著な類似を示す。
まだわかっていないこと:その相似がどの程度の深さを持つのか、機能的な共通性があるのかどうか、そしてダークマターやダークエネルギーの正体そのもの。
宇宙の大規模構造と脳の神経回路が似た形を持つという発見は、「離れたスケールに同じ構造原理が働いている可能性がある」という点で、物理学・神経科学双方にとって意味のある問いを提起しています。
ユークリッド望遠鏡をはじめとする次世代の観測が進むにつれ、コズミック・ウェブの詳細な姿が明らかになっていきます。その観測データが、この相似の意味をどこまで解明できるか。今後の研究が注目されます。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
Related
おすすめの宇宙観測YouTube Channel
この記事が役に立ったなら、チャンネル登録を
新着ショート動画をいち早くお届けします。