
111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。
111光年先の惑星を「直接撮影」する——JWSTが土星サイズの系外惑星の像を初めて取得 系外惑星は5,000個以上見つ…

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夜空に見える無数の光の点は、太陽に似た恒星です。その多くが惑星を従えていることも、いまでは知られています。では、その惑星にどのような気体が漂っているかを、地球から一歩も動かずに調べられるとしたらどうでしょう。
700光年とは、光の速さでも700年かかる距離です。人類がどれほど高性能なロケットを開発しても、生きているうちにたどり着ける見通しはありません。それでも、その彼方にある惑星の大気から、二酸化炭素の存在を示すシグナルをとらえることに、私たちは成功しました。比喩ではなく、実際の観測の話です。
天文学の歴史は長いあいだ、より鮮明に、より遠くを見る技術の歴史でした。17世紀初頭にガリレオが望遠鏡を木星に向けて衛星を発見して以来、約400年間、私たちは天体を「見る」技術を磨いてきました。
ところが、惑星の大気成分を知るために必要だったのは、より大きく見ることではありませんでした。必要だったのは、光を虹のように分解する技術——分光です。
太陽の光をプリズムに通すと、赤から紫までのグラデーションが現れます。19世紀、科学者たちはその帯をよく観察すると細い黒い線が刻まれていることに気づきました。これは吸収線と呼ばれ、特定の元素が特定の波長の光だけを吸収した痕跡です。ナトリウムならここ、水素ならここ、というように元素ごとに吸収する波長が決まっています。光の欠け方を読めば、そこに何があるかが特定できるわけです。
太陽以外の恒星を公転する惑星を系外惑星と呼びます。最初の確実な発見は1995年、ペガスス座51番星を公転する「51 Pegasi b」でした。それからわずか30年で、確認された系外惑星の数は5,000個を大きく超えています。
しかし、惑星は自ら光を発しません。恒星と比べればきわめて暗い存在です。その大気を遠距離から調べることは、長らく実現困難と見られていました。鍵を握っていたのは、惑星が恒星の手前を横切る瞬間でした。
地球から見て、惑星がちょうど恒星の手前を通過する配置をトランジット(食)と呼びます。このとき恒星の光はほんのわずか暗くなり、それだけでも惑星の存在や大きさを推定できます。
そして、惑星が恒星の縁にさしかかる瞬間、恒星の光のごく一部が惑星の大気の薄い層をかすめて通り抜けてきます。大気に二酸化炭素があれば、二酸化炭素が吸収する波長の光が減少します。水蒸気があれば、水蒸気に対応する波長が減ります。通り抜けてきた光をスペクトルに展開すると、大気の成分に対応した「欠け」が現れます。その欠けの位置が分子の指紋となるわけです。この手法を透過分光法(トランスミッション分光)と呼びます。
この観測の対象となったのが、おとめ座の方向、約700光年先にある系外惑星WASP-39bです。質量は土星程度ですが、恒星のすぐそばを約4日周期で公転しているため大気が膨張しており、直径は木星を上回ります。表面温度は約900℃と、生命が存在できる環境ではありませんが、膨らんだ大気は光を多く通すため、透過分光の対象として適していました。
2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)がこの惑星を観測しました。波長4.3マイクロメートル付近——人間の目には見えない赤外線の領域に、明確な吸収シグナルを検出したのです。これは二酸化炭素(CO₂)の指紋に対応するものでした。系外惑星の大気における二酸化炭素がこれほど明確に検出されたのは、このときが初めてとされています。
JWSTによる観測でWASP-39bからわかったことは、二酸化炭素だけではありませんでした。研究者たちはデータの中に、二酸化硫黄(SO₂)の存在も見出しました。地球では火山ガスや大気汚染の指標としても知られる物質です。
この二酸化硫黄は、惑星にもともと含まれていた成分ではなく、恒星からの強い紫外線が大気中の分子を分解・再結合させることで生成したと考えられています。光化学反応と呼ばれるこの過程は、地球のオゾン層を形成するのと同種の反応です。つまり、大気の組成を「数えた」だけでなく、700光年先の惑星の大気で進行している化学的プロセスを確認したことになります。
WASP-39bの大気からは、水蒸気、一酸化炭素、ナトリウム、カリウムなども検出されています。ただし、これらの成分比は惑星がどこで形成され、どのような軌道変化を経てきたかという生い立ちと関係するとされており、その解釈は完全には確定していません。恒星のすぐそばにこれほど巨大なガス惑星が存在する理由も、起源はいまも議論の途上です。
より長期的な課題は、同じ手法を地球のような岩石惑星に適用できるかどうかです。酸素やメタンなど、生命活動と関連しうる分子の吸収シグナルをとらえることができれば、「宇宙に生命は地球だけか」という問いに対して、観測データに基づいた議論が始まります。現時点ではまだそこには至っていませんが、技術的な道筋は示されています。
惑星大気の話が身近に感じられないとしても、この「光の欠けを読む」技術は、すでに私たちの日常にも使われています。血液中の酸素濃度を測るパルスオキシメーター、工場の排気ガス監視装置、食品の成分分析、農作物の生育管理——いずれも物質が特定の波長の光を吸収する性質を利用した分光技術の応用です。遠い天体を観測するために磨かれた方法が、地上の医療や環境管理にも転用されています。
今回の観測が示したことを整理します。JWSTはWASP-39bのトランジット観測から、大気中の二酸化炭素を明確に検出し、さらに光化学反応による二酸化硫黄の生成という動的な化学プロセスも確認しました。透過分光法という手法が、系外惑星の大気分析に実際に機能することを、具体的なデータで示したという点で、この観測は一つの到達点です。
一方で、惑星の形成過程や成分比の解釈は未解決のままです。地球型惑星への適用も、技術的な課題が残ります。700光年先の惑星の空気を読むことはできた。ただし、読み解けた部分はまだ限られており、これは出発点に近いものです。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
※ 当サイトの内容の正確性には万全を期していますが、 科学的知見は日々更新されます。最新かつ正確な情報は、上記の一次情報源をご確認ください。 編集方針の詳細は編集方針・運営者情報をご覧ください。
未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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