
人類は、700光年先の惑星の空気を読んだ。
人類は700光年先の惑星の大気成分を特定した——透過分光という技術の話 夜空に見える無数の光の点は、太陽に似た恒星です…

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土星の平均密度は水よりも低い、約0.687 g/cm³です。理論上、土星は十分に大きなプールに浮きます。これは宇宙の密度スケールでいえばかなり極端な値ですが、実はもっと低密度な惑星が複数確認されています。
綿あめの密度はおよそ0.05 g/cm³。これとほぼ同等、あるいはそれを下回る密度の惑星が、木星ほどの大きさで実際に存在します。この記事では、そのような低密度惑星群「スーパーパフ」について、何がわかっていて何がまだ謎なのかを整理します。
人類が太陽系外で初めて惑星を発見したのは1995年のことです。ペガスス座51番星を周回する「ペガスス座51番星b」は、木星級のガス惑星でありながら恒星のごく近くを高速で公転していました。「ホットジュピター」と呼ばれるこの発見は、太陽系の構造が惑星系の標準形ではないことを示した最初の証拠のひとつです。
それから約30年で、発見された系外惑星は5,000個を超えました。この過程で、惑星の密度を測る二つの手法が整備されています。
トランジット法では、惑星が恒星の前を横切る際の光量低下から惑星の半径がわかります。**視線速度法(ドップラー法)**では、惑星の重力による恒星のわずかな揺れから質量がわかります。この二つが揃ってはじめて密度が計算できます。
参考値として、地球の密度は5.51 g/cm³(岩石・鉄の塊)、水素・ヘリウムのガス球である木星でさえ1.33 g/cm³です。長らく、惑星の密度はこの範囲に収まると考えられていました。
2010年代に入り、観測網が広がるにつれて、上記の常識を大きく外れた惑星群が確認されはじめます。半径は木星級に大きいのに、質量が異常に小さい。この一群は**スーパーパフ(super-puff)**と呼ばれています。
代表例が、地球から約2,600光年離れた若い恒星ケプラー51の周囲にある三つの惑星(ケプラー51b・51c・51d)です。
ケプラー51dを例にとると、半径は木星の約8割(地球の約9倍)ありますが、質量は地球の6〜7倍程度にすぎません。ここから導かれる密度は約0.03〜0.06 g/cm³。綿あめ(約0.05 g/cm³)や発泡スチロール(約0.03 g/cm³)と同程度であり、地球の密度の100分の1以下です。
これほどの低密度が生じるメカニズムとして、現在有力とされているのは次の組み合わせです。
まず、ケプラー51は誕生から約5億年ほどの若い恒星です(太陽は46億歳)。形成直後の惑星はまだ高温で、その熱エネルギーが大気を大きく膨張させています。次に、中心核(コア)は岩石・氷で地球数個分程度と小さく、重力が弱いため、膨張した水素・ヘリウムの大気を引き締めておくことができません。弱い重力と高温が重なることで、ガスの層が広範囲に広がっていると考えられています。
ただし、これが完全な説明かどうかは未確定です(後述)。
2020年、ハッブル宇宙望遠鏡がケプラー51b・51dの大気を分光観測しました。これほど膨らんだ大気は、さまざまな分子の吸収線が読み取りやすいはずでした。
ところが得られたスペクトルは、予想に反して平坦でした。この結果は、惑星の上層に高高度のヘイズ(もや)層が広がっており、その下の大気を覆い隠していることを示唆しています。大気が膨張しているにもかかわらず、その組成をはっきり読み取ることができないという、やや逆説的な状況です。
2023年から本格運用が始まったジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、赤外線でヘイズの奥を観測できる可能性を持っています。スーパーパフや、同様に低密度で知られるWASP-107b(海王星サイズの質量なのに木星に近い半径を持つ惑星)の大気観測が進められています。
WASP-107bの観測では、大気中に二酸化硫黄やシリケイト(ケイ酸塩)の雲が検出されており、膨張した大気の中で想定外の化学反応が起きていることが示されています。
スーパーパフをめぐっては、いくつかの重要な問いがまだ答えを持っていません。
熱膨張だけで説明できるのか。 一部のスーパーパフは、若さや内部熱だけでは膨らみすぎているように見えます。
リング仮説。 トランジット法で測られた半径は、惑星本体ではなく土星型のリングまで含めた値である可能性があります。リングをトランジットで検出しているならば、実際の惑星はもう少し小さく密度も高くなります。
大気喪失の将来。 弱い重力のため、強烈な恒星風によって大気が継続的に宇宙空間に剥ぎ取られていると考えられています。数十億年後にはコアのみが残る「裸の惑星」になる可能性があります。
スーパーパフは、惑星が生まれてから大気を失っていく過程の、ある一時期の姿を切り取っているのかもしれません。
スーパーパフは、惑星科学の根本的な問いと直結しています。惑星はどのように大気を獲得し、どのような条件で失うのか。半径が同程度の惑星でも、内部構造は全く異なる可能性がある。これは、惑星を分類・理解する枠組みそのものへの問いかけでもあります。
また、太陽系にはスーパーパフもホットジュピターも存在しません。系外惑星の多様性を知るほど、太陽系の惑星配置は宇宙的に見て「整いすぎている」例である可能性が浮かび上がってきます。
低密度惑星の形成と進化を理解することは、惑星の大気がどのような条件で長期間維持されるのかを解き明かす手がかりになります。それは結果として、地球がなぜ生命を保持できる環境を保ち続けているのかという問いとも繋がっています。
現時点での整理として、確認されている事実と未解明の点を区別しておきます。
確認されていること
有力とされているが未確定のこと
依然として議論中のこと
JWSTによる赤外線観測が進むにつれ、これらの謎に新たな光が当たることが期待されています。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
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