
人類は、700光年先の惑星の空気を読んだ。
人類は700光年先の惑星の大気成分を特定した——透過分光という技術の話 夜空に見える無数の光の点は、太陽に似た恒星です…

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夜空に青く輝く惑星がある。深いコバルトブルーで、一見すると地球を連想させる色をしています。しかしその青の正体は、海でも穏やかな空気でもありません。砕けたガラスの粒子が超音速の嵐となって永続的に吹き荒れる、極限の環境です。
惑星 HD 189733b は、地球から約64.5光年離れたこぎつね座の方向に位置します。2005年、「トランジット法」と呼ばれる手法で発見されました。トランジット法とは、惑星が主星(その惑星が公転する恒星)の手前を横切る際に生じるわずかな減光を検出する方法です。
64.5光年は宇宙のスケールでは比較的近い距離であるため、HD 189733b はこれまでに最も詳しく観測された系外惑星(太陽以外の恒星を周回する惑星)のひとつとなっています。
この惑星は「ホット・ジュピター」に分類されます。木星と同程度の巨大ガス惑星でありながら、主星のごく近くを公転するタイプの惑星の総称です。HD 189733b と主星の距離は、太陽と地球の距離の約30分の1。その結果、公転周期はわずか2.2日です。地球の1年に相当する時間が、この惑星では約53時間になります。
長らくこの惑星はガス球として大まかに理解されていましたが、2013年に転機が訪れます。NASAのハッブル宇宙望遠鏡が、系外惑星の色を人類史上初めて直接測定することに成功しました。
研究チームが用いた手法は「二次食」の観測です。惑星が主星の裏側に隠れる前後で、地球に届く光がどのように変化するかを精密に分析しました。惑星が隠れると、その惑星が反射していた波長の光が消えます。その差分が、惑星固有の色を示します。
測定された色は、鮮やかな**深い青(コバルトブルー)**でした。
地球が青く見えるのは、海水と大気による太陽光の散乱が主な理由です。そのため、青い惑星と聞けば水を連想するのは自然なことです。
しかし HD 189733b の大気温度は摂氏1000度を超えるとされています。液体の水が存在できる温度ではありません。
では、なぜ青いのか。現在有力な仮説として、大気中にケイ酸塩(シリケイト)の微粒子が浮遊しているという考えが挙げられています。ケイ酸塩は地球の岩石やガラスの主成分でもある物質です。高温の大気中でケイ酸塩が凝結し、無数の微細なガラス粒子となって雲を形成しているとされています。
このガラスの微粒子が、主星から届く光のうち青い波長を強く散乱させるため、惑星が青く見えると考えられています。ただし、これはあくまで現時点での仮説であり、確定した事実としてではなく「最も有力な解釈」として理解するのが適切です。
HD 189733b にはもうひとつ際立った特徴があります。凄まじい大気の流れです。
この惑星は主星に非常に近いため、月が地球に常に同じ面を向けるように、常に同じ面を主星に向けていると考えられています。このような状態を「潮汐固定」と呼びます。昼側は灼熱、夜側は相対的に低温という極端な温度差が、大気に強大なエネルギーをもたらします。
その結果として推定される風速は、秒速約2km、時速にして7000〜8700km。地球の最大級のハリケーンでも時速300km程度ですから、その20倍以上に相当します。音速(時速約1225km)をはるかに超える速度です。
摂氏1000度の大気の中で、ケイ酸塩のガラス粒子が音速の数倍の速さで横方向から吹きつけ続ける。上から落ちてくる雨ではなく、水平方向に、途切れなく吹きつける嵐です。惑星の青い輝きはこのような環境の中から生まれています。
HD 189733b の過酷さは大気の嵐にとどまりません。主星が起こすフレア(恒星表面での爆発現象)の影響も受けています。2010年の観測では、フレアの直後に惑星の上層大気が膨張し、毎秒1000トンを超える水素ガスが宇宙空間に流出している様子が確認されました。長い時間軸でみれば、惑星の大気が少しずつ失われていることになります。
これまでの観測では、大気中に水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素の痕跡も検出されています。水分子が存在するとはいえ、摂氏1000度超の環境では液体の水ではなく、高温の蒸気としてしか存在できません。
近年はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、こうしたホット・ジュピターの大気組成をより高い精度で調べはじめています。「透過分光」と呼ばれる手法で、主星の光が惑星大気を通過する際の変化を分析することで、どの分子がどの高さにどの温度で存在するのかが、少しずつ明らかになりつつあります。
それでも未解明の点は多く残っています。ケイ酸塩の雲が大気全体をどの程度覆っているのか。超音速の風が昼側と夜側でどう変化するのか。大気がこれほど激しく失われ続けながら、なぜいまもこの惑星が存在するのか。HD 189733b は観測が進むほど、新たな問いを生み出す惑星です。
系外惑星はこれまでに5000個以上発見されています。そのなかには「地球に似ている」と紹介される惑星も少なくありません。サイズが近い、岩石質である、主星からの距離が適切、といった条件が報告されるたびに、私たちはそこに生命の可能性を想像しがちです。
HD 189733b はその想像に注意を促します。青い色は水の存在を意味しない。地球に近い属性がいくつか揃っていても、それはその惑星の環境が穏やかであることをまったく保証しない、ということです。
一方で、この惑星の環境は地球がいかに特異な条件下にあるかを示す比較対象にもなります。液体の水が地表に安定して存在できること、大気が生命に対して致命的でないこと——宇宙の惑星の多様性という文脈では、地球の環境は珍しい条件の積み重なりの上に成り立っています。
HD 189733b について現時点で確かなこととして、ハッブル宇宙望遠鏡による直接測定で深い青色が確認されたこと、大気温度が摂氏1000度超であること、公転周期が2.2日と非常に短いこと、フレアによる大気流出が観測されたこと、水蒸気などの分子が検出されていることが挙げられます。
一方、青色の原因とされるケイ酸塩雲の存在は現時点では最も有力な仮説であり、超音速風の詳細な構造や、長期的な大気変化の挙動については研究が続いています。
64.5光年離れた場所で、いま現在も進んでいるこの惑星の観測は、「系外惑星の大気を読む」という天文学の新しい領域を開きつつあります。HD 189733b はその最前線に立つ惑星のひとつです。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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