
人類は、700光年先の惑星の空気を読んだ。
人類は700光年先の惑星の大気成分を特定した——透過分光という技術の話 夜空に見える無数の光の点は、太陽に似た恒星です…

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夜空を見上げたとき、「あの光の向こうに誰かがいるのだろうか」と考えたことがある方は多いでしょう。長いあいだ、それはロマンの域を出ない問いでした。しかし2023年から2024年にかけて、その問いは具体的な科学的データを伴って議論されるようになりました。124光年彼方の惑星の大気から、地球上では生命だけが生成するとされる分子の存在が示唆されたのです。
その惑星の名は、K2-18b。今回はこの惑星をめぐる観測結果と、まだ解消されていない不確かさを整理します。
系外惑星、すなわち太陽系の外に存在する惑星の探索が本格化したのは1990年代のことです。
1995年、スイスの天文学者ミシェル・マイヨールとディディエ・ケローが、太陽に似た恒星の周囲を公転する惑星を史上初めて確認しました。この功績は2019年のノーベル物理学賞に輝いています。それ以前、惑星として確認されていたのは太陽系の8天体のみでした。
状況が一変したのは、NASAのケプラー宇宙望遠鏡が2009年に観測を開始してからです。現在、確認された系外惑星の数は5,800個を超え、候補天体まで含めれば1万に迫ります。銀河系には2,000億から4,000億個の恒星があり、その多くが惑星を持つと考えられています。単純計算で、銀河系だけで惑星は数千億個に上る計算です。
これほどの数の惑星が存在しながら、生命は地球にしかいないのか。K2-18bはその問いに一つの手がかりを提供しています。
K2-18bは、しし座の方向、約124光年の距離にあります。地球の約8.6倍の質量と約2.6倍の半径を持ち、太陽よりも小さく暗い赤色矮星の周囲を約33日周期で公転しています。
この惑星が注目される理由のひとつは、主星のハビタブルゾーンに位置していることです。ハビタブルゾーンとは、液体の水が惑星表面に存在できる温度帯のことを指します。地球も太陽のハビタブルゾーンに位置しています。
近年、研究者たちはK2-18bを「ハイセアン惑星」の候補として分類しています。これはHydrogen(水素)とOcean(海洋)を組み合わせた造語で、水素を主成分とする厚い大気の下に全球を覆う広大な海をたたえた惑星の形態を指します。ただし、これはあくまで仮説の一つです。後述するように、異なるモデルも提唱されています。
2023年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)がK2-18bの大気を分析しました。手法は「透過分光法」と呼ばれるもので、惑星が主星の前を横切る際に、星の光が惑星大気を通過します。その光を分光器で波長ごとに分解すると、大気中の分子が特定の波長を吸収するパターンから成分を同定できます。
この観測で、大気中の二酸化炭素とメタンが確認されました。これ自体すでに重要な成果です。ハビタブルゾーンにある惑星でこれらが同時検出されたのは初めてのことです。
さらに注目を集めたのは、**硫化ジメチル(DMS)**の検出が示唆されたことです。DMSは地球上では主に海洋性の植物プランクトンが生成し、無機的なプロセスからは生じにくいとされています。「生物由来の指標分子(バイオシグネチャー)」として研究者が着目してきた化合物の一つです。
ここで、観測結果の確かさについて正確に述べておく必要があります。
2023年の初報では、DMS検出の統計的信頼度は低く、研究チーム自身が「さらなる観測が必要」と明示していました。2025年に発表された追加観測では、DMSおよび類似分子の信号がより強く示されたものの、その確からしさは現時点で約**「3シグマ」**にとどまります。
3シグマとは、「偶然そのように見える確率が約0.3%」を意味します。一見小さい数字ですが、物理学や天文学で「発見」として認定される基準は**「5シグマ」**(偶然の確率が約350万分の1)です。現状はその基準には達していません。
加えて、以下の点も未解決です。
現時点では、「生命の存在を示唆するデータが得られつつある」という段階であり、「生命が存在すると確認された」わけではありません。
K2-18bの観測が示すのは、主に二点です。
一つは技術的な意義です。JWSTは、124光年という距離にある惑星の大気成分を細かく分析できることを実証しました。これはハビタブルゾーンにある惑星の大気を詳細に調べるという、これまで不可能だった観測を現実のものにしています。
もう一つは、問いの具体化です。「地球外に生命はいるか」という抽象的な問いが、「K2-18bの大気中のDMS濃度は生物起源と整合するか」という検証可能な形に変わりました。これは科学的な進歩です。
距離の感覚として補足すると、K2-18bまでは124光年あります。いま私たちが観測している光は124年前に放たれたものです。仮に電波信号を送ったとしても、返信が届くまでには248年かかります。直接的なコンタクトを意味する発見ではありませんが、宇宙における生命の分布を理解する上での重要な一歩となりえます。
JWSTは引き続きK2-18bの観測を行う予定です。DMSの検出がより高い信頼度で確認されるか、あるいは否定されるかは、今後のデータ次第です。
わかっていること:K2-18bはハビタブルゾーンにあり、大気に二酸化炭素とメタンが含まれ、生物起源の可能性がある分子の存在が3シグマ水準で示唆されています。
まだわかっていないこと:そのDMSが本当に存在するかどうか、仮に存在するとして生物由来かどうか、惑星がハイセアン型かどうか、そして生命が実際にいるかどうかです。
宇宙における生命の問いに答えるためには、より多くの観測と、より慎重な検証が必要です。K2-18bはその検証の対象として、現在もっとも注目されている天体の一つです。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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