
【JWSTが撮った】111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。 #JWST #系外惑星
【JWSTが撮った】111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。 私たちは、ずっと「影」だけを見てきた 夜空を見…

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夜空を見上げたとき、そこに満月の何倍もある巨大な天体が、いくつも並んで浮かんでいたとしたら。あなたはそれを「美しい」と感じるだろうか、それとも本能的な恐怖を覚えるだろうか。
私たちにとって「空」とは、青く晴れわたり、夜になれば小さな点のような星々が瞬く場所だ。しかし宇宙には、その常識がまるで通用しない世界が確かに存在する。鈍く赤い太陽に照らされた地表に立ち、頭上を見上げれば、隣の惑星が満月の数倍――いや、握りこぶしほどの大きさで天を覆っている。それは絵空事ではない。物理法則が許す、現実の風景なのだ。
人類が「地球の外にも世界がある」と確信したのは、意外なほど最近のことだ。
太陽以外の恒星にも惑星があるはずだ――この発想自体は古代からあった。16世紀の哲学者ジョルダーノ・ブルーノは「無数の太陽に無数の地球がめぐる」と説き、火刑に処されたとも伝えられる。だが彼らには、それを確かめる手段がなかった。
系外惑星(太陽系の外にある惑星) が初めて確実に発見されたのは、1995年のことである。スイスの天文学者ミシェル・マイヨールとディディエ・ケローが、ペガスス座51番星をめぐる惑星「51 Pegasi b」を見つけたのだ。この功績により、二人は2019年にノーベル物理学賞を受賞している。
驚くべきは、その最初の惑星の姿だった。木星ほどの巨大なガス惑星でありながら、わずか 4日ほどで主星を一周していたのだ。これは、太陽と水星の距離のさらに10分の1以下という、灼熱の至近距離である。
太陽系の常識では、巨大ガス惑星は遠い軌道にあるはず。ところが宇宙は、私たちの想像をはるかに超える「惑星配置」を平然と用意していた。この発見以降、観測技術は飛躍的に進歩し、現在までに確認された系外惑星は 5,000個以上。候補も含めれば、その数はとどまるところを知らない。
そして発見が増えるほどに、私たちは思い知らされる。「空に巨大な隣の星が浮かぶ世界」は、決して珍しくないのかもしれない、と。
冒頭のビジュアル――赤い太陽の下、空にいくつもの巨大な惑星が並ぶ光景。これを成立させる科学的条件を、ひとつずつ解き明かしていこう。
まず、地表を照らす鈍く赤い太陽の正体は 赤色矮星(せきしょくわいせい) だ。これは太陽よりも小さく、温度が低い恒星で、表面温度は約3,000〜4,000度(太陽は約5,500度)。放つ光は赤やオレンジに偏り、世界全体を夕焼けのような色に染める。
重要なのは、赤色矮星が 宇宙で最もありふれた恒星だという事実だ。天の川銀河の恒星のうち、実に 約7割が赤色矮星だと考えられている。つまり「赤い太陽の空」は、宇宙ではむしろ標準的な風景なのである。
赤色矮星は暗いため、惑星が液体の水を保てる ハビタブルゾーン(生命居住可能領域) は、主星のすぐ近くに位置する。地球と太陽の距離を1とすれば、その10分の1から20分の1ほどの至近距離だ。
惑星同士の軌道間隔もそれに応じて狭くなる。すると――隣り合う惑星が、互いの空にとてつもなく大きく見えることになる。
ここで具体的に計算してみよう。私たちの空に浮かぶ満月は、地球から約38万km離れた、直径3,474kmの天体だ。見かけの大きさ(視直径)は約0.5度である。
では、地球サイズ(直径約12,700km、月の約3.7倍)の惑星が、わずか100万kmの距離――地球・月間の約2.6倍――に隣接していたらどうなるか。視直径は単純計算で 満月の約7倍にもなる。空を見上げれば、青みがかった、あるいは茶色く渦巻く巨大な球体が、こぶし大の存在感で頭上に鎮座するのだ。
これが複数あれば、まさに冒頭の絶景――いくつもの「隣の星」が天に並ぶ光景が現実となる。
これは机上の空論ではない。2017年に発見された TRAPPIST-1 系がその好例だ。地球から約40光年の赤色矮星のまわりを、7つの地球サイズの惑星が極めて近接した軌道で公転している。最も内側の惑星の「1年」はわずか1.5日。隣り合う惑星の間隔は驚くほど狭く、ある惑星の空には、別の惑星が月よりはるかに大きく見えると計算されている。
では、こうした世界の「空」を、私たちは本当に確かめられるのだろうか。研究は今、決定的な段階に入っている。
2021年末に打ち上げられた ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST) は、系外惑星研究を一変させた。惑星が主星の前を横切る瞬間、主星の光が惑星の 大気を透過する。その光を分光分析すれば、大気にどんな分子が含まれるかが分かるのだ。
JWSTはすでに、系外惑星の大気から二酸化炭素や水蒸気、さらには 二酸化硫黄といった分子を検出している。私たちは今、何十光年も離れた惑星の「空気」を、地球にいながら嗅ぎ分けつつあるのだ。
しかし、赤色矮星の惑星には大きな謎がある。主星に近すぎるため、多くの惑星が 潮汐ロック(自転と公転が同期し、常に同じ面を主星に向ける現象) に陥っていると考えられるのだ。月が地球に常に同じ面を見せているのと同じ原理である。
すると惑星には、永遠の昼が続く灼熱の半球と、永遠の夜に凍りつく半球が生まれる。果たして、こんな極端な世界に大気や水は安定して存在できるのか。生命は芽生えうるのか。**昼と夜の境界線(ターミネーター)**にだけ、穏やかな世界が広がっているのか――答えはまだ出ていない。
さらに赤色矮星は、しばしば激しい フレア(恒星表面の大爆発) を起こし、強烈な放射線を至近距離の惑星に浴びせる。これが大気を剥ぎ取ってしまう可能性も指摘されている。「ありふれた赤い太陽の世界」が、本当に穏やかな空を保てるのか。それは現代天文学に残された、最も熱い問いのひとつだ。
こうした世界を知るほどに、私たちは自分たちの空を新しい目で見つめ直すことになる。
地球の空に巨大な隣の星が浮かばないのは、太陽が十分に明るく、惑星同士が遠く離れた軌道を保っているからだ。私たちが当たり前と思っている「青い空」「小さな満月」「穏やかな昼夜」――そのすべては、絶妙なバランスの上に成り立った、宇宙的にはむしろ例外的な風景なのかもしれない。
近い将来、JWSTの後継機や次世代の超大型望遠鏡が稼働すれば、私たちは系外惑星の地表の色や、雲の様子までも推定できるようになるだろう。「あの星の空には、巨大な隣人が浮かんでいる」――それを科学的事実として語れる日は、もう目前に迫っている。
宇宙には、私たちの数だけ、いや、星の数だけ「空」がある。赤い太陽に照らされ、頭上に巨大な隣人を抱いた世界。永遠の夕暮れに沈む大地。そのどれもが、誰にも見られることのないまま、何十億年も同じ光景を映し続けてきた。
今夜、あなたが見上げる空も、宇宙のどこかから見れば、ひとつの奇跡だ。そしてはるか彼方では、今この瞬間も、満月の何倍もある惑星が、赤い空に静かに昇っているのかもしれない。その光景を思い浮かべるとき――私たちの想像力もまた、光の速さを超えて、宇宙の果てへと旅立っていく。
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