
人類は、700光年先の惑星の空気を読んだ。
人類は700光年先の惑星の大気成分を特定した——透過分光という技術の話 夜空に見える無数の光の点は、太陽に似た恒星です…

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夜空に見える星の光の多くは、遠く離れた恒星のものです。しかし、その恒星を回る惑星の中には、私たちの常識とはまったく異なる姿をした世界があります。地表が一面のマグマに覆われ、そこから立ち上る岩石の蒸気が大気を形成し、空から溶けた鉱物の雨が降り注ぐ惑星、いわゆる「溶岩惑星(ラヴァ・ワールド)」です。
1995年、人類は太陽以外の恒星を公転する惑星、系外惑星を初めて確実に確認しました。それから30年で、確認された系外惑星の数は5,000個を超えています。
当初、探索の目標は「第二の地球」、すなわち液体の水と生命を育める穏やかな惑星でした。ところが観測が進むにつれて見えてきたのは、太陽系の惑星とはかけ離れた、多種多様な世界の存在でした。
その中でも研究者の注目を集めたのが、恒星のすぐそばを高速で公転する惑星群です。地球が太陽を1周するのに365日かかるのに対し、これらの惑星はわずか数時間から数日で1周します。
たとえば2009年に発見されたCoRoT-7bは、主星からの距離が地球と太陽の距離の約60分の1とされています。水星が太陽を回る軌道よりもはるかに内側です。このような極端に近い軌道では、惑星は恒星からの強烈な熱を受け続けます。
こうした惑星には「潮汐ロック」と呼ばれる状態が生じやすいとされています。月が地球に常に同じ面を向けているのと同じ仕組みで、惑星の自転と公転が同期し、常に同じ半球が恒星に向き続ける状態です。その結果、一方の半球は永続的な昼、もう一方は永続的な夜になります。この極端な温度差が、岩石の大気を成立させる環境的な前提になると考えられています。
潮汐ロックされた溶岩惑星の昼側では、地表温度が摂氏2,000〜3,000度に達すると推定されています。この温度は岩石の主成分であるケイ酸塩の融点をはるかに超えており、昼側の地表は固体の岩盤を保てず、巨大なマグマの海になると考えられています。
さらに注目されるのが、その大気の組成です。地球の大気は窒素や酸素などの気体が主成分ですが、溶岩惑星の大気はマグマの海面から蒸発した鉱物成分で構成されているとみられています。ナトリウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、気体状の鉄などが主成分として挙げられています。地面そのものが蒸発して大気になっている、ということです。
この岩石蒸気が上空で冷えて凝結すると、鉱物からなる雲が形成されます。そしてその雲は、水ではなく溶けた岩石の粒子を雨として降らせると考えられています。岩石が蒸発し、雲になり、再び岩の雨として地表に戻る。地球における「水の循環」に対応するような、岩石の物質循環が惑星規模で機能しているという描像です。
また、昼側の高温域と夜側の低温域の温度差は、惑星規模の激しい大気循環を引き起こすとされています。理論計算によれば、岩石蒸気を運ぶ風の速度は時速数千キロメートル、音速を超える水準に達すると予測されています。夜側に運ばれた岩石蒸気は急激に冷えて凝結し、岩の雪や雨として降り積もる。こうして惑星全体で、蒸発と凝固のサイクルが繰り返されているというモデルが提示されています。
2020年、カナダのマギル大学などの研究チームは系外惑星K2-141bの精密なシミュレーション結果を発表しました。この惑星は主星を6.7時間で1周します。研究によると、昼側の温度は摂氏3,000度に達し、惑星表面の3分の2が恒星に晒されています。マグマの海の深さは最大100キロメートルに及ぶと推定され、前述した岩石の循環が惑星規模で機能しているという結論が導かれています。
55カンクリeは地球の約8倍の質量を持つ「スーパーアース」に分類される溶岩惑星です。かつては炭素を豊富に含み、ダイヤモンドでできた核を持つ可能性が議論されたこともありました。
2024年には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測が、この惑星が単なる裸の岩塊ではなく、二酸化炭素や一酸化炭素を含む本物の大気を持つ可能性を示しました。マグマの海から放出されたガスが惑星を覆っていることを示唆する成果であり、岩石蒸気の大気が理論上の概念から観測で検証できる対象へと移りつつあることを意味しています。ただし、大気の詳細な組成や性質については、まだ多くが解明されていません。
これほど遠方にある小さな惑星の大気を、どのように調べるのでしょうか。主な手法は透過光分光観測です。
惑星が恒星の手前を通過する「トランジット」の際、恒星の光の一部が惑星の大気を通過します。物質はそれぞれ特定の波長の光を吸収する性質があるため、透過してきた光をスペクトル分析することで、大気に含まれる元素を特定できます。JWSTのような高精度な赤外線望遠鏡は、この非常に微弱な信号から大気中にナトリウムやシリカの蒸気が存在するかどうかを読み取ろうとしています。技術の進歩により、かつては検出不可能だったシグナルが少しずつ取り出せるようになっています。
溶岩惑星は、現在の地球とはかけ離れた環境です。しかし同時に、46億年前の地球の姿との比較材料としても注目されています。
誕生直後の地球は、微惑星の衝突によって全体が溶けた「マグマ・オーシャン」の状態にあったと考えられています。その後、表面が冷え、大気が形成され、海ができ、生命が生まれた。溶岩惑星を研究することは、惑星がどのような過程を経て現在の姿になるのか、その初期段階を理解するための手がかりになります。
もちろん、溶岩惑星がすべて同じ経緯をたどるわけではなく、各惑星の組成や主星の性質によって状況は大きく異なります。それでも、惑星進化の多様なパターンを解明する上で、これらの極端な環境の惑星は重要な比較事例を提供しています。
溶岩惑星における岩石蒸気の大気という概念は、理論予測から観測的な検証の段階へと進みつつあります。K2-141bのシミュレーション研究や、55カンクリeに対するJWSTの観測はその代表例です。
一方で、岩石蒸気大気の詳細な化学組成、鉱物雲の正確な挙動、マグマの海の深さと循環の実態など、未解明の点は多く残っています。観測技術の向上とともに、これらの謎は少しずつ解消されていくでしょう。
夜空の光の点一つひとつが異なる環境を持つことは、宇宙の多様性を示すとともに、惑星科学における研究課題の広さをも示しています。溶岩惑星は、その中でも特異な一群として、惑星形成と進化の理解に新たな視点をもたらし続けています。
参考・情報源
本記事は、以下の公的機関・専門機関が公開する観測データや研究成果を参考に、 編集部が制作しています。最新の研究状況や一次情報については、 各機関の公式サイトもあわせてご確認ください。
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未知なる宇宙科学 ARCHIVES 編集部
NASA・ESA・JAXA・国立天文台などの公的機関が公開する観測データや研究成果をもとに、 宇宙科学のテーマをわかりやすく編集・制作しています。内容に誤りを見つけられた際は、 お問い合わせよりご指摘ください。
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